昨夜は宝善院の宿坊に泊まり(後述)、今朝は八時から、奥之院と弘法大師の御廟を見物した。何年か前の冬に訪れたなじみが幸いして、ゆったりとした気分で拝観できた。
御廟前に拝堂として建立されたという燈籠堂があらためて印象に残った。万燈を超えるという献燈籠が整然と灯っていた。
入り口の一の橋から御廟までの参道は約2`。両側には昔の諸大名の墓碑や供養塔、それらに混じって現在に至る有名人、名だたる会社のが、不幸にして既につぶれてしまった会社のも含めて、無数に立ち並んでいる。20万基を超えるとか。
前回雪に覆われていた全貌を、この度は目にとどめることができた。聖域につき撮影禁止となっている。
高野山真言宗総本山たる金剛峯寺を拝観できなかったのは、時間の関係とはいえ、いかにも残念。 |
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前夜は、さすが高野山と思わせるほど涼しかったが、下界は寝苦しかったろう。
虚子の「炎天の空美しき高野山」とは裏腹に、昼前とはいえ、いま、ここもそれなりに暑い。 |
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剃髪していないのが気になったが、若いお坊さんが案内してくれた。録音して披露したいくらいの、情報満載・聞き応えのある語り。易しく噛みくだき、ユーモラスに、時折質問をまじえて相互交流を忘れず……、この旅一番のガイドだった。大半の貴重な情報を思い出せないのはひとえにぼくの責任と限界と心得ている。 |
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「五輪塔」の説明は覚えている。
仏教では、「宇宙を構成する物質は、空・風・火・水・地の五つの要素」と説かれている。これらの要素を宝珠、半月、円、方形に象(かたど)ったものが「五輪塔」である。
庶民のために五輪塔を簡略化したのが「卒塔婆(そとば)」であり、略して「塔婆(とうば)」ともいう。木片の上部の切り込みが「宇宙を構成する五つの要素」を表している。
……そんな風だったかなあ。参道には、五輪塔形の墓碑が数多く見受けられ、塔婆もいくつかあった。 |
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院への道端に芭蕉の句碑があった。 |
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芭蕉は貞享五年(1688)春、伊賀上野で父の三十三回忌を終えたのち高野山を訪れたという。
『笈の小文』にあるこの句は、その時に詠んだ句ではないか、と言われている。
静かな杉木立の中、お互いに呼び合う雌雄の雉の声を聞いた芭蕉は、父母の姿を偲んだのだろう。
行基(奈良時代)の吉野山における次の詠歌をふまえているそうだ。
『山鳥のほろほろと鳴く声聞けば父かとぞ思ふ母かとぞ思ふ』(玉葉和歌集) |