往路
 10月3日(土)、浦安市の自宅を早朝6時に出発して、スロヴェニアの宿泊先、ブレッド湖近郊のホテルに着くまで、乗り継ぎの待ち合わせを含めて丸々一昼夜近くを要した。
 ルフトハンザを利用したことにもよるが、成田から空路、ドイツ・フランクフルトで乗り継いでオーストリア・グラーツへ。そこからはバスで、終着地のスロヴェニア・ブレッド湖へ走る。3ヶ国に足跡を残した、といってはなんだが、そういう一日になった。
 ジャンボが成田を飛び立ってしばらく、頭上のテレビ画面で映画がはじまる。日本名は何だったか、ヴィン・ディーゼル主演の「Fast & Furious」。最近イクスピアリで時間つぶしに見たのだが、英会話勉強の足しにと、しばらくつきあう。
 飽きたところでiPodを取り出し、自分の朗読を聞くことにする。ポケットサイズの愛用品だ。120ギガバイト・ハードディスク内蔵の優れもので、旅行には必ず携帯している。クラシック音楽と落語が中身のほとんどを占めているが、「中高年の元気!」の朗読部分もしのばせてある。そのところを聴くことにした。
 2日前に仕上げたエッセイだ。雑記帳第55話「2009年秋、今日この頃」という題名で、朗読時間は1時間5分。
 数ヶ所で手直しの衝動にかられメモしだしたが、《一旦終止符を打ったものにまたまた修正を加えるつもりか》と、自分をいさめて思い留まった。
 昼食終えて、あと2本映画に付き合った。
オーストリアにさしかかる
 グラーツ空港を出て、宵闇に待つ出迎えのバスに乗る。42人乗りの大型新車で、横幅も前の座席との間隔もゆったり。
 スロヴェニア人の背高ヤコブ氏が、以降4ヶ国を一巡して9日目に戻ってくるまで、ずっとこの大型バスで案内してくれることになる。
 乗客は添乗員を含めて33人だから、空いている座席は代わる代わるリラックス用ということにした。
 南へ220キロ、途中オーストリアからスロヴェニアへの国境を通過し、仲秋の名月に後押しされながら2時間半走る。
 夜中9時ちょうど、ブレッド湖畔のホテル・クリムに着いた。
……………………
ブレッド湖 (10月4日) スロヴェニア
 6時40分、モーニングコールで起床。朝食をすませて部屋に戻り、テレビをつけて驚いた。CNNテレビは前財務大臣・中川昭一氏の死去を伝えている。
 英語半解りのまま耳をそばだてると、どうやら「自殺のようだ」と言っているらしい。「であれば、親子二代にわたって」とも。
 無風快晴にして、寒くない。一応ジャケットを身につけたが、不要な気もする。それが原因の出来事はいずれ……。
 ブレッド湖の船着き場はホテルからバスで10分ほどのところにあった。
 2組に分かれて手漕ぎボートに乗る。「プレトナ」というそうだ。たくましい漕ぎ手の青年が乗客の体重を判断しながら、左右バランスがあうように微調整を繰り返す。2,3人が移動する。「もういいのでは?」ぼくたちの気持ちを察する様子はない。やっと得心したところでボートは岸を離れる。
 湖面は、添乗員が「エメラルドグリーン」とわざわざ言うほど鮮やかな緑色で、ボートから眺める景色は澄んだ青空の下で品のいい絵を描いたようだ。対岸の崖に建つブレッド城や、トリグラフ山(2864m)を頂点とする背景の山並みに目を奪われながら、ブレッド島という小島に着く。
 99段の階段を上ってバロック様式の聖マリア教会を見物する。8世紀から9世紀にかけて建造され、17世紀に改築されたのが現在の建物という。外観にうっとりし、内部の聖マリア像や装飾・壁画に気分が和んだ。名物の鐘突き? 一度高鳴りさせて次に譲った。ご利益? 満足の旅!
 隣接のパリッシュ教会にも入る。ネオゴシック様式で、1904年に改築された。白ブドウの房の形をしたシャンデリアがきれいだった。
 湖に面した庭園はゆっくりくつろげるようになっている。午前中をのんびりゆったりと、ブレッド島で過ごした。
 ブレッド湖は周囲が6`ほどで遊歩道が巡っており、3時間あれば一周できるそうだ。観光列車や馬車もあるらしい。方角毎に現れる違った景色に思わず足を止めてしまう、と案内書にある。残念ながら今回は果たせず。
 ボート乗り場の真正面に当たる対岸に見えるブレッド城も見物できなかった。城から眺める景色はまた圧巻という。案内書にも「朝、昼、夕方と何度訪れても、その時々で表情を変える雄大な自然の美に息を呑んでしまう」とある。
 再度訪れることはむずかしいが、「もし」が許されれば、この地だけでも2,3日は留まりたいものだ。
ポストイナ鍾乳洞 (10月4日)
スロヴェニア
 ブレッド湖の近くで昼食後、バスは1時間あまり走り、ポストイナ鍾乳洞の入口に着く。最終日に立ち寄るスロヴェニア共和国の首都リュブリャーナから南へ80`のところにある。
 ヨーロッパ最大といわれるこの鍾乳洞には度肝を抜かれた。総延長27`だそうだ。世界遺産であっても不思議ではないが、トロッコ等、人為的になされているアクセスが引っかかりになっているとか。でもこのアクセスなかりせば……。
 そのトロッコで洞窟を2`下っていく。スピードも手伝い、スリルがあった。
 途中から、驚天動地≠ニいう大仰な表現を素直に受け入れたいほどの、インディ・ジョーンズかハムナプトラの映画で見たような神秘≠フ世界がどんどん迫って、矢のように過ぎ去る。
 下車後1.7`にわたって、10万年の歴史が刻んだという地下大自然を感動胸一杯に味わった。
 撮影が制限されていることもあり、写真は数枚しかない。それは残念だが、この旅で最大目に焼き付いた自然の造作だった。
 いろいろな形をした鍾乳石を、ラクダ・ワニ・カメ等、名指していたが、ぼくはスパゲティ≠ニいわれる真っ白でソーメンのように細くて繊細な氷柱群に目を奪われた。それに表面がつるつるで滑らかな白色のブリリアント≠ニ、向こう側が透けて見えるカーテン=B
 こうした鍾乳石が1_成長するのに10年から30年かかるそうだ。悠久の自然に圧倒された。
 いびつな鍾乳石群を目の当たりにして、当然ながら7年前に訪れたサグラダ・ファミリアが頭にダブった。スペイン・バルセロナで120年以上たった今も建設中の聖家族教会だ。
 これを手がけたアントニ・ガウディがこの鍾乳洞を訪れたかどうかは不明だが、そうでないとしても、彼の建築概念にこのような鍾乳洞が関わっていたのではないだろうか。真面目にそう思った。
 「コンサートホール」と呼ばれるだだっ広い地下広場のあたりだった。水槽にトカゲの形をした、肌色の奇妙な生き物を見た。うなぎのようにも見える。ディナール・アルプスに棲息する類人魚≠ニいう。
 目を凝らすと結構いる。2,3aから20a大のものまで、四つ足で、うずくまったり這ったりしている。盲目の両生類だそうだ。卵で生まれる。100歳まで生きるのもあるとか。撮影は当然許されず。
 感動のポストイナ鍾乳洞見学を終えて、夕刻約70`を海岸沿いに南へ。途中スロヴェニアからクロアチアへの簡易国境あり。越えてしばらく走ると、オパティアというリゾート地に着く。19時。
朗読(15:41) on
<まえおき ザダール、トロギール、スプリット>
まえおき
往路、ブレッド湖(S)、
ポストイナ鍾乳洞(S)
プリトヴィッツェ湖群(C)
ザダール(C)、トロギール(C)、
スプリット(C)
リュブリャーナ(S)
ドブロクニク(C) アラカルト1
コトル(M)、モスタル(B) アラカルト2
(S):スロヴェニア、(C):クロアチア、
(M):モンテネグロ、(B):ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
Close  閉じる