| エルキュール・ポワロ |
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旅行最終日（6月15日）は、カイロから南へ近郊のピラミッドと遺跡を巡った。100㌔強の距離だが、ナイル川に沿って上流へ向かったことになる。
メイデュームでは、三段の階段状になったピラミッドを見た。
ダフシュールでは、屈折ピラミッドを眺め、赤のピラミッドは内部に入って玄室まで、急階段をエビのようにかがんで往復した。
メンフィスにはエジプト古王国の遺跡が多くあった。プラタ神殿跡、ラムセス2世博物館、アラバスター製スフィンクス……。
サッカラは、エジプト最古といわれる階段ピラミッド。高さ59㍍という6段の奇妙なピラミッドを眺めた。
雨のない国の初夏（〝熱暑に向かっている〟）の天気で、空は申し分ないが、暑い！ カラッとしているといっても、40度を超えているのではないか。ときどき目がくらんだ。
この広大な砂漠が、何千年も前、長きにわたって世界に冠たる王国だった。……母なるナイル！
生物を寄せ付けない砂漠を潤し、池を作り、緑を与え、ナツメヤシの実をたわわにして収穫させ、穀物・野菜・果物の耕地まで与えているナイル川。行きも帰りも大小の運河を道路左右に見ながら、大いなる天地自然と人間の営みに思いを馳せて、なにかうっとりした。
車窓はるか、ナツメヤシが道なりに群れをなす向こうに見え隠れするナイル。アフリカ中東部に端を発した流れが6600㌔のうねりの果てに、エジプト北端で地中海に注いでいる。ボヤーッとして、移りゆく景色に漫然と目をやりながら、頭の中は脈絡のないことが行き来していた。
大河にクルージングの船が現れたとき、「ナイル殺人事件」…………
アレキサンドリアでは、地中海に面した海岸の波打ち際で興じながら、「地中海殺人事件」を思い出した。
トルコ・アンカラからイスタンブールまで寝台特急「Ankara Express」に乗ったときは、「オリエント急行殺人事件」が頭にあった…………
と、ここまでの幻影は思いつきの大ウソだ。エジプト・トルコの旅を考えたときから、これらの映画の題名がぼくの胸にずっとあった。
灰色の脳細胞のエルキュール・ポワロが活躍する英国作家アガサ・クリスティーの推理小説と、その映画である。
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| クリスティの三作品と、ぼくが見た映画を表にすると、こうなる。 |
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| 作品名 |
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Murder on the Orient Express
(1934) |
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Death on the Nile
(1937) |
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Evil under the Sun
(1941) |
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| 映画 |
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オリエント急行殺人事件
(1974 イギリス) |
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ナイル殺人事件
(1978 イギリス) |
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地中海殺人事件
(1982 イギリス) |
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| 監督 |
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シドニー・ルメット |
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ジョン・ギラーミン |
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ガイ・ハミルトン |
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| ポワロ |
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アルバート・
フィニー |
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ピーター・
ユスチノフ |
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ピーター・
ユスチノフ |
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| 出演者 |
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ローレン・バコール
マーチン・バルサム
イングリッド・バーグマン
ショーン・コネリー
アンソニー・パーキンス
リチャード・ウィドマーク |
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ミア・ファーロー
ロイス・チャイルズ
アンジェラ・ランズベリー
ジェーン・バーキン
ベティ・デイヴィス |
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ジェーン・バーキン
ジェームス・メイスン
コリン・ブレークリー
ニコラス・クレイ |
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| 事件 |
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イスタンブール発フランス・カレー行きオリエント急行で事件が起きる。 |
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ナイル川クルージング。ピラミッドが次々と現れ、船で事件が……。 |
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地中海に浮かぶ孤島のリゾート・ホテルで、女優が殺される。 |
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「ナイル殺人事件」は、自宅に帰った翌日ＣＡＴＶで放映された。ギザの三大ピラミッドからサッカラ、ダフシュールのピラミッド。ここからポワロを乗せた観光船は南へナイルを遡る。ルクソール、王家の谷、アスワン。そして殺人！
現地の印象覚めやらぬときでもあり、背景は楽しかったが、内容は……。クリスティの小説もこんなものだったのだろうか。西村京太郎のミステリーのエジプト版とは言い過ぎか。ピーター・ユスチノフをはじめ、有名俳優を使い捨てにしたような気がした。
「地中海殺人事件」は思い出せない。近いうちにビデオで見ることにする。
「オリエント急行殺人事件」は、大学受験の頃原書に挑戦した覚えがある。内容のおもしろさに惹かれて、知らない単語は読み飛ばしながら、最後まで一気に読んだ。「アクロイド殺人事件」（The
Murder of Roger Ackroyd）同様、好きな小説だ。
映画もよかった。殺され役はリチャード・ウィドマーク。次々に怪しい人物が現れて、わけが分からなくなる。
監督は云わずと知れたシドニー・ルメット。「12人の怒れる男」を見て、やみつきになった。「質屋」「セルピコ」「狼たちの午後」「ネットワーク」「デストラップ」「評決」「グロリア」……。
ほとんどの作品の舞台がニューヨークである。アメリカ映画は〝ハリウッド〟に対して、ニューヨーク社会派で硬派。
「オリエント急行殺人事件」がこの監督によって映画化されたとは、奇妙な気もするし、小説にとってもわれわれ映画ファンにとっても幸運だと思っている。
当然のことながら、ポワロ映画では、この作品が最右翼とのことである。豪華な俳優人が、雪で立ち往生するオリエント急行という密室で激しく絡み合う。
近年ポワロはテレビでも評判になった。デビッド・スーシェの顔かたち・ひげ・立ち居振る舞いが、いまやポワロ像として定着している。
たしかに面白い。なかには原作以上ではないかと勘ぐれるようなのもある。俳優が役にピッタリはまっている典型ではないか。
ポワロがデビッド・スーシェのテレビで、エジプトが舞台の短編があることを知った。「エジプト墳墓の謎（The Adventure of the
Egyptian Tomb）」。王家の谷の発掘隊がメンハーラ王の埋葬室に入ったとたん、リーダーが急死。そのあとも隊の関係者が次々と……。面白そうだ。いずれ見てみる。
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| カイロ近郊のピラミッドと遺跡 |
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| ポワロの話が長くなって、ピラミッドのことを忘れるところだった。横道から話を戻して、冒頭で書きはじめていた、カイロの少し南に位置する4ヶ所の遺跡に触れる。ギザの三大ピラミッドはPart2で書いた。 |
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最終日、カイロから南へ100㌔ほどの砂漠に展開するピラミッド群の観光はオプションだったが、25人全員が参加した。
もう馴染みのガイド、ラファット氏の説明を聞きながら、行き交う車のない道をしばらく行くと、ナツメヤシ生い茂る集落が近づいた。
エジプトずっと南のルクソール、アスワン、アブ・シンベルの観光は果たせなかったが、4つの遺跡はゆっくり見物することができた。 |
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| メイデューム |
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ラファット氏曰く、
「このピラミッドは、表装石が崩れたため、三段の階段状になっています。これ、いまから行きますダフシュールの二つをあわせて、古代エジプト史上初めて建造されたピラミッド・コンプレックスになっているのです。
ここで考えられた工法は、その後600年にわたって受け継がれたといわれています。ピラミッド建造法を知る手掛かりとして貴重なものです」。 |
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| ダフシュール |
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「この二つのピラミッドは、クフ王の父・スネフェル王のものとされています。クフ王のピラミッドはギザにありますね。
屈折ピラミッド……高さ105㍍の真ん中（下から50㍍くらい）の地点で角度が変わっています。下部の傾斜は52度、上部は43度です。理由は諸説ありまして、メイデュームの真正ピラミッドが崩れて失敗したためとか、王の死が近いので工事を急いだから、などといわれています。
赤のピラミッド……赤っぽい石が使われていますね。断面が二等辺三角形の真正ピラミッドとしては最古のものです。ただ、その角度は屈折ピラミッドの上部と同じで、後に造られたピラミッドより傾斜はなだらかです」。 |
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| メンフィス |
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「メンフィスは、エジプト古王国時代に、初めてエジプトを統一したナルメル王が首都と定めた町です。「美しい町」という意味です。戦略的理由で、『死の世界』といわれるナイル川の西に建設されました。
この遺跡は、スフィンクスで有名ですね。アラバスター（雪花石膏）製で、顔はエジプト最初の女王『ハトシェプスト』だと云われています。ギザのスフィンクスよりきれいな顔立ちでしょ！
ラムセス2世像はどうでしたか？ 花崗岩製です。脚は一部欠けていますが、迫力があったでしょう。体長15㍍ですから」。
アメリカ・テネシー州に同名の町がある。エルビス・プレスリーのおかげで有名になった。やはり名前はエジプトのこの古代都市に因んだという。……30年前にそこの鋳物屋を訪ねたことがある。名前で思い出した。 |
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| サッカラ |
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「エジプト最古といわれるジェセル王の階段ピラミッドです。王の命を受けた大臣のイムヘテプが、当時主流とされていた台形の墳墓からこの四角形を積み重ねたピラミッドに発展させました。
高さ59㍍、基底部123．5㍍X107㍍で、6段の階段状になっています」。 |
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……「皮膚が焦げる」、だれかが悲鳴を上げた。オーバーには違いないが、肯けた。これで優しい風がなければ……。
40度をどれくらい超えているのだろうか。バスから眺める階段ピラミッドはゆらゆらとかげろう状になっていた。
ラファット氏に勧められて、そのピラミッドの近くで熱砂を手の平に3杯すくった。家に帰ったいま、作業机の水差しに入っていることは、Ｐａｒｔ５の写真で見せた。
ギヤマンに入れたる砂漠虫の見ゆ
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| 朗読(15'50") on |