1.まえがき 4.生前墓地
2.小説4篇 5.サヨナラ2件
3.ホームベーカリー 6.断捨離する、される
7.不可忘〝Yさんの贈り物〟
5.サヨナラ2件
  今年に入って、2つの楽しみに自らサヨナラした。

1.Email Diaryと三人会

 浦安国際センター(UIC)主催の英会話クラスで一緒していたNさんから、英文Eメールを受け取ったのは2014年5月28日だった。もちろんぼくの返信も英文にて。
 それが始まって1ヶ月ほど経った頃か、文通だけで済ましてしまってはと考えるに至り、自分の発信分のみ日記として残すことにした。
 Nさんの了解も得、「中高年の元気!」の「English Edition」広場に掲載をはじめた。「English Diary」コーナーとして。
 さほど長続きはすまい、との予想は見事に外れて、彼女の持続力に驚き感謝している間に1年が過ぎようとしていた。

 その頃もう一人の英会話クラス仲間のMさんが、「お願いがあるのですが」と、うれしい提案を持ち掛けてきた。週に一度、英会話主体の三人会をはじめよう、とのことだ。もちろん賛成、Nさんも。
 ぼくにとっては、大した実力もない一介の後期シニアが美女二人に囲まれてのひと時。そんな幸運にテレと不似合いを感じながらのスタートだった。

 3人の都合がいい毎週金曜日。Mさんの仕事終業に合わせて夕刻5時半から1時間、UICの一室にて。
 近況報告主体のフリーディスカッションにはじまって、後半は英文テキストの和訳。
 フリーディスカッションは、彼女たちがそれぞれ興味ある英文記事を持ち寄って、毎回話が盛り上がる。
 後半に使用のテキストは、〝I am Pea-chan, the Parakeet〟にした。ぼくの童話風小説を、スポーツクラブでご一緒していたJulia女史(ぼくより一回り近く年上)に手伝ってもらいながら英訳したものだ。それが終わってからは、いつぞやぼくが愛用していた「アメリカ口語教本(上級用)」を使用することにした。お古だがぼくのメモ満載の自分用は、幾分助っ人になるとの思いで。
 彼女たちも終了時刻はあってないようなもの。ぼくが声掛けしなければ、いつまで続くことやら。UICスタッフのみなさんも好意的で、他の予定がない限り、多少の時間延長は大目に見てくれた。
 時には特別ゲストが加わる。UICのAさんによるウズベキスタン2年間の話、センター長W氏による南米駐在時代の話、等々。
 この三人会、よほどの不都合ない限り毎週、よく続いたものだ。飽きることを知らない彼女たちの熱意にひたすら感謝するばかりである。

 それがこの3月、三人会もEmail Diaryも、両方とも先の見えない中断となった。Email Diaryはあれからなんと3年8ヶ月。互いの旅行や病気等、交信不能時を除いて毎日続いていた。
 Email Diaryは、Nさんのメールを受け取ることなく日記をしたためる気のないぼくの挫折。
 開始後3年近くになっていた三人会はひとえにぼくのせいで、自分の限界が身に染みていた。もったいない話だが、美女二人と会える金曜日がなぜか重荷に感じていたのだ。毎日の晩酌が夕刻5時からなのに、その日だけはその30分後から三人会。そんな理由では決してない。何事もおっくう・出不精な高齢特有の病か。これも否定したいが、そうかもしれない。

 Nさんの病はかなり深刻のようで、退院はいつを期待していいのか?
 病床で自らの病に残念がるNさん、そしてMさんの途方に暮れた表情たるや。

 そんなことであれからもう8ヶ月。ときどきMさんからメールを受け取るが、Nさんは消息を絶っている。

2.時事英語クラス

 英会話にはマンネリと自らの限界を感じる一方で、読む書く、つまり英訳・和訳には大いなる未練がある。年齢(とし)を重ねるにつれて実力は落ちているかもしれないが、意欲はさほど衰えていない。というか、わが残るわずかな趣味と言ったほうが当たりだろう。
 数年前までは自著の国内紀行文や小説の英訳と、時折の英文記事和訳に励んでいた。

 そんなときのこと。
 2016年10月から浦安国際交流協会(UIFA)が「時事英語」クラスを開講するとのことで、説明会があり出席した。「時事英語」にぼくの趣味との接点なきやと、期待して。
 講師のT先生は40代(?)、このクラスと「英語通訳」クラスを担当されるとか。朗らかで、張りのある声。好感を得た。
 講座内容は、世界の様々な出来事や文化を念頭に置き、米英メディアのウェブによるニュース速報から抽出されるとのこと。ついて行けるかどうかわからないが、早速申し込んだ。

 10月から半年区切りで15回。土曜日午後4時半から1時間半。受講者は定員に満ち、15名だった。
 クラスはこんな具合だ。その回の英文記事テキストがその場で配布され、受講者がひとわたり目を通したあと、円卓の席順で一小節ずつ各自が英文を朗読し、その和訳に挑む。
 何事もうまくいくとは限らないものだ。1ヶ月過ぎて4回目が終わったとき、止めようと思った。他の受講者も和訳では苦闘しているようだから、落ちこぼれはぼくだけではないと思いつつも、これからもこの状態が続くと思うとしんどくなったからだ。
 5回目のクラス開始前に女性数人が雑談している。
「テキストの事前配布をお願いするわ」
 そんな声が聞こえ、思わずぼくも彼女たちにうなずいた。
 先生がみんなに測る形で、次回からその要望がかなえられた。
 その都度3,4日前に英文記事のテキストが先生から各自にEメール添付で送られることになり、これでぼくの悩みは解消した。
 そしてそれが数回終わったころ、「折角先生が選んでくれたトピックとぼくなりに苦労して仕上げた和訳が〝ハイ、ソレマデヨ〟ではもったいない」。まじめにそう考え、この「中高年の元気!」に「時事英語講座」というコーナーを設け、クラスの翌々日に掲載することにした。
 それで終わればいいものを、やりすぎとは思いつつ、12月終わりの頃か、クラスが始まる前に先生にぼくの和訳を渡し、「よろしければ」、と話しかけた。先生、一瞬ニコッとして、「どうぞ!」。さらにぼく、「これからもよろしいですか?」。先生再びニコッとして、「どうぞよろしく」。

 ちょっと話が飛躍して……。
 〝千里の道も一歩より〟、何事も積み重ねは、当の本人が知らぬ間に驚くような姿を見せることがある。〝飽きっぽい〟が身上のぼくでも、一つだけ内心自慢がある。言うまでもなく、20年ほど前に開設したホームページ「中高年の元気!」だ。まさに独りよがりで、紀行文・エッセイ・小説主体の「雑記帳」とその英訳の「English Edition」をはじめ、12の広場で成り立っている。その大部分がぼくのだみ声朗読付。いまやその時々に思いを込めたかなりの作品が忘却の彼方といった具合に盛りだくさん。だから、出来栄えはともかく、各広場を振り返っては、「こんなことも書いていたのだ」と思いを新たにし、来世の退屈しのぎになるとほくそ笑んでいる。
 そして今、この時事英語。

 ……………
 T先生の励ましに支えられて、「時事英語講座」コーナーが「English Edition」広場に加わり、一昨年12月から順調に続いていた。
 がいつまでも晴れた日ばかりではない。今年に入ったころ、胸の動悸に違和感を感じ、脳神経内科の先生のご指示で心電図検査を受けたところ、脈拍異常。
 循環器内科に回され、24時間心電図その他数種の検査を受けた。その結果、常備薬の血圧降下剤の一つが原因と診断され、直ちに同薬服用を絶った。それですべてが収まれば結構なのだが、そううまくはいかない。11月の今もペースメーカー植え込みを薦められている状況である。

 この脈拍異常が原因なのだが、時事英語クラスで順番が来て朗読すると、動悸が早くなるのがわかる。気持ち悪いし、神経過敏にもなる。
 そんなことで5月から本年前期終了の9月まで、クラスへの出席は遠慮させていただき、テキスト和訳のみ先生にメール添付で届けてきた。それを含めて、様々なトピック全56話が「時事英語講座」コーナーに納まっている。

 後ろ髪を引かれつつ、10月の後期から退会することにした。が、何とかしてテキスト和訳を続けさせていただけないか。Eメール長文で先生に無理な申し出となった。
 「脈拍異常が完治しないままでのクラス出席は気が重く、当分退会させていただくことにしました。しかし、これまで先生が毎回テキストとして選んでくださった記事の和訳は、私のやりがいの一つになっています。受講者でない者が今後もテキストを送ってくださいとは、無理難題だと十分承知していますが、私の意欲の続く限り、ぜひ挑戦を続けさせていただきたいです。テキスト提供の代金は、ご指示により喜んでお支払いいたします。
 ご賛同願えればのことですが、これからの私の和訳作品は、新しい広場を設けて掲載させていただきたいです(もちろんクラスの翌日以降を厳守します)。」

 先生からご返事はなかったが、10月の後期第1回分が、「参考に読んで頂けたら嬉しいです」の添書とともにEメールで送られてきた。そしてこの11月16日の第6回分まで、これまで同様テキストを送っていただいている。
 当方、先生のご好意にひたすら感謝しながら、苦闘の和訳成果を生きがいの印として、仕上がり次第お届けしている。
 このやりがいの成果は、先生ご了解のもとに、「English Edition」広場に「英字ニュース」コーナーを新設して公開している。今回のは近いうちに第6話「米中間選挙、トランプ氏と民主党の選挙地図への挑戦を浮き彫りに」として追加掲載することになる。 (11月25日現在)

5.サヨナラ2件 朗読: 19'15"