1.まえがき 4.生前墓地
2.小説4篇 5.サヨナラ2件
3.ホームベーカリー 6.断捨離する、される
7.不可忘〝Yさんの贈り物〟
3.ホームベーカリー
 Dスポーツクラブで知り合った友人と、月一度近くの中華居酒屋で語らっている。3ヶ月前、そのH氏に真顔で薦められた。
「朝食のパンは自分で作りましょう。大したことないですよ」
 マニュアルどおりに必要な具材を容器に所要量放り込めば、自動的に1(きん)きれいに仕上げてくれるとか。
 彼のアドバイスに従ってY電気で尋ねたら、ホームベーカリー(自動パン焼き器)、あるある。中で、新製品と取り換えのため半額セールという、それでも値引き後で2万円超という高価な優れものを購入した。

 ところがだ。分厚いマニュアルを数ページ何度読み返しても理解できない。途方に暮れる。やはり年齢(とし)
 助け舟は娘夫婦だった。茶色の彼らの愛用品を持参し、
「当分の間、これを使ってみたら? わからないところは私が教えてあげるから」
 購入の優れものは娘夫婦にゆだね、彼ら好意のパン焼き器でスタートすることになった。

「まず具材ね」
 と、娘が妻を伴ってすぐそこのSスーパーへ。
 その間、S君(娘の夫)がテーブルに彼らの実物とマニュアルを並べて説明明快。要するに、中のパンケースに〝パン羽根〟をセットし、後は27ページに書かれてある具材をそれぞれの分量放り込めばよい。そしてドライイースト3gをイースト投入口に落とし込み、電源を入れる。スタートボタンを押すと、4時間で自動的に1斤の食パンが出来上がっているとのこと。
 110ページ余りのマニュアルについては、S君、
「暇な折りにでも目を通してください。いろいろなメニューを試すことができますよ」
 まずはぼくにとって初回品だが、そんなにうまくいくのかなあと、不安げな顔をすると、S君自信ありげに、
「もうすぐ実体験していただきます」

 娘と妻が、パン粉をはじめ所要の具材を手提げ袋に入れて帰ってきた。娘の我慢強いアドバイスでぼくの実体験が始まる。

1.パンケースに、パン羽根をセット
2.パンケースに次の具材を次々と入れる。
 強力小麦粉(250g)、バター(10g)、砂糖(17g)、スキムミルク(6g)、塩(5g)、水(180g)
3.イースト投入口にドライイースト(3g)を流し込む

 そして、電源を入れ、スタートボタン。途端に焼き器本体がゴトゴトと音を立てて作業開始。後は4時間後の仕上がりを御覧(ごろう)じろか。
「うまくいくわよ」
 と、不安げなぼくを尻目に娘夫婦は帰宅した。

 さて予定のその時刻。自動パン焼き器がピッピッ、と6回鳴る。ふたを開けると、パンケースに見事なパンが出来上がっている。焼き器からパンケースを取り出し、斜め下に何度か振ると、こんな上物が現れた。味? 言うまでもありません。

 そしてこの1ヶ月。5回試してすべて成功。パン屋さんに悪いが、味は身びいきながら比べるのが野暮。レーズンを80g入れて、レーズンパンも大成功。妻も毎朝食しながら、頼もしそうにぼくを見る。娘夫婦のおかげで、僕の日常の楽しみが一つ増えた。

 内緒にしたいのだが、一つ失敗を打ち明ける。
 一昨日の分は思わざるハプニング。ドライイーストが半分ほど穴から落ちずに入口にへばりついている。何らかの拍子に湿らせてしまったようだ。
 その所為(せい)なのだろう。パンの大きさはいつものより縦が半分ほど。重さは同じだから、食べ心地はよくない。歯ごたえも重いし、スッキリ感なし。
 いい勉強になった(ということにしよう)。ぼくの判断が正しければ、今度はうまくいくはずだから。

 ということで、本日の出来上がりがこれ。(2018年10月23日)

レーズン・クルミパン

 ……………
 心強い仲間が加わった結果、毎朝6時の朝食はこんな具合。(11月7日)

 
自前スムージー  本日はネーブルオレンジ1個、バナナ1本、ブルーベリー少々、黒酢少し、水と氷少々……これでグラス4,5杯分
(日によって、ネーブルの代わりにリンゴ1個、またはカットトマト缶入り半分)
自煎コーヒー  Kaldiのブランド〝マイルドカルディ〟を煎じる。(ここ10年近く同じ銘柄)
自前食パン  上記のとおり。今回はレーズン入れず。
自前ヨーグルト  カスピ海ヨーグルトの種菌から数年間自前の出来栄えを食している。
 今回のトッピングは妻のリンゴジャム。
旬の果物  本日は、この前の旅行先で地の方にいただいた柿。

  8時頃ご起床の奥殿の喜びよう、目に見える。

3.ホームベーカリー 朗読: 8'51"