0.タイムスリップ 1.コスタ・アズル 2.マドリード
3.トレドと近郊 4.アンダルシア 5.リスボンと周辺
6.アラカルト
6.アラカルト (à la Carte)
 2005年5月、10日間の旅、イベリア半島東端にあたるスペイン・バルセロナを起点に西へ西へバスで巡り、西端のポルトガル・リスボンが終点だった。
 その間、バレンシアを経て、半島中心部のマドリードからトレド、ラ・マンチャ、コルドバ、グラナダ、ミハス、セビリア、エヴォラ。
 車窓は地中海、平原、要塞、古都、そして大西洋、……実質8日間で半島南半分を横断した。

 スペイン、ポルトガルに関する旅行前の認識を打ち明けると、両国の違いは言語くらいで、それもよく似ていると、お粗末の極みだった。
 と突き放したいが、今の知識レベルも五十歩百歩だから、恥ずかしい。逆にそれをいいことに、ここでは両国をイベリア半島で丸めて、強引に本章「アラカルト」を進めることにする。

1.イベリア半島は世界のどの辺?
  The Iberian Peninsula, Where in the world?

 イベリア半島を地球儀で見ると、ヨーロッパ大陸から南西にずんぐりの握りこぶしが突き出た格好になって、下方のジブラルタル海峡でアフリカ大陸の入口モロッコに指で接している、といった具合だ。
 その面積約58万㎢の85%をスペインが占め、残りの15%がポルトガルで、西部に細長い。
 握りこぶしの付け根がフランスとの国境で、南方真横に広がる地中海を東に行くと縦なりに接したコルシカ島とサルディーニャ島の向こうに長靴のイタリア半島が待ち受けている。
 西方は大西洋を隔てて北米大陸が横たわり、ニューヨーク付近が同じ緯度上にある。
 赤道に向かって大西洋を南西に行くと南米大陸、さしずめブラジルということになるが、さほど遠くない。この大陸のほぼすべてをスペイン・ポルトガルの両国で分けあった大航海時代が偲ばれる。文化も言語も今日まで受け継がれている。
 イベリア半島から一番遠い地域は? 空路のない時代は、日本だったのでは? そんな400年以上も前に、九州の三大名がこの半島に使節を送ったのだ。長崎にはポルトガルとの交流の形跡がある。
 その頃に定着したポルトガルからの外来語を幾つかあげると、

キリシタン、バテレン、クルス、サンタマリア、ロザリオ、ジュバン、ビロード、カステラ、カボチャ、テンプラ、コンペイトー、バッテラ、オルガン、カピタン、カルタ、タバコ、チャルメラ、フラスコ

 旅行前の頭の中は、前述のとおりお粗末の極みだったし、旅で知識レベルが向上したかというと、見得を切るほどの自信はない。が、心の奥まで刺激されたことは、だれにはばかることもなさそうだ。さほどに気分は高揚している。

2.イベリア半島の歴史を覗(のぞ)
  Simple History of the Iberian Peninsula

 Wikipediaの諸ページを参考にして、イベリア半島の現在までの約2500年を覗いてみる。ただしこの項は自分の参考用だ。所詮借り物だから素通り願う。

紀元前3世紀  ローマ帝国に支配される。
紀元後5世紀  南フランスの西ゴート王国に統治される。首都はトレド。
8世紀  イスラム教のウマイヤ王朝(後、〝後ウマイヤ王朝〟)に制圧される。首都はコルドバに移る。
 以後11世紀半ばまでイスラム支配が続く。
11世紀半ば  約400年にわたって、キリスト教、イスラム、アラブといった諸勢力が割拠してせめぎ合いを繰り返す。
15世紀後半  数100年続いたレコンキスタ(国土回復運動=イスラム勢力駆逐運動)がやっと完了し、このときスペインとポルトガル両王国が成立する。
20世紀  スペイン:内戦のあとフランコ独裁政権が1975年まで40年近くも続き、それから王権復活・民主化を経て現在に至る。
21世紀現在  スペイン:スペイン王国、立憲君主国家 人口:約46百万人
 ポルトガル:ポルトガル共和国、共和制国家 人口:約10百万人
3.今のあなたの町にずっと住みたい? コシバさん?
 Do you want to live in your town forever, Koshiba-san?

 ツアーの一員として10日間、イベリア半島を巡ってさほど現地の人々に接していない。が、空気やそよ風のようにどことなく肌に感じるなにかがあった。「どうです、いい町でしょう!」、そんな雰囲気だ。
 愛国・国土愛というような大げさなものではなく、わが町というか、この町にずっと住みたい、そのためには自分なりに町を守り、みんなでよりよくする。
 ぼくはどうなのだろう。似て非なるものと言わざるを得ない。内心の秘密をチラッとあかす。

 ぼくのふる里は和歌山県南の新宮市三輪崎だ。昨年(2004年)世界文化遺産に登録された「紀伊山地の霊場と参詣道」の一隅(いちぐう)で、熊野三山の速玉大社(新宮市)と那智大社(那智勝浦町)を結ぶ熊野古道大辺路(おおへち)沿いにある。

鈴島↑ ↓孔島

 太平洋に広がる熊野灘に面して、今はどこにでもある山と海に囲まれたこれといって特徴のない町だが、ぼくが生まれた昭和15年(1940年)頃は漁村だった。太平洋戦争勃発の1年前だ。
 わが町「三輪崎」のはるか往時をたどれば「神武天皇東征上陸の地」と、まじめに大看板が立てられているが、それよりも、ぼくには奈良時代にできたとされる「万葉集」がしっくりくる。隣町の佐野とともに数首詠われており、ぼくの大好きな一首をあげる。

苦しくもふりくる雨か神(三輪)が崎
  狹野(佐野)のわたりに家もあらなくに
長忌寸奥麻呂(ながのいみきおきまろ)

 この「中高年の元気!」でも、「南紀熊野」のタイトルで、〝ふる里への思い入れ広場〟を設けている。
 ではこのふる里三輪崎にずっと住みたいか。三輪崎に帰りたいか。ふる里を思う気持ちと現実との間に、正直ずれがある。

 千葉県浦安市に住んで30年近くになる(2005年現在)。通勤に便利が第一で、たまたま選んだのだが、期待以上の住み心地だ。とくにシニアになって思いを強くする。
 山本周五郎が「あおべか物語」の舞台とした田舎漁村の面影とディズニー・リゾートや高層マンション林立の新浦安が程よくマッチしている。買い物、医療、文化、スポーツ……、なににつけても狭い半径の中にあって用をたせる。
 ぼくは運動をすぐそこのスポーツプラザで、好きな映画はイクスピアリのシネコン、国際センターでシニア英会話、暇つぶしと教養に公民館・図書館、小学校も少々つながりがある。友人にも恵まれている。妻もこの地がお気に入りで、大いに楽しんでいる。
 では浦安市をいまわが町と言ってはばからず、何事があっても住み続けたいか。Yesではあるが、少ししらける。
 町を支える住民の一人としてよりよくしたいというよりも、いまの住みよい環境を享受しているといったほうが真実の気持ちに近い。

 そんな心のありようでイベリア半島各地の空気を吸い、わずかだが地の人々に接して、どの地でもにこやかな彼らに自分との違和感を覚えた。

4.この町にずっと住みたい? イベリア半島のみなさん?
 Do you want to live in your town forever, Iberians?

 地球のほぼ裏側ともいえる日本にいて、頼りない知識でイベリア半島を見れば、無責任な外野席よろしく、勝手なかけ声やひいきの引き倒しになりかねない。
 スペインとポルトガル両国について、それぞれの特徴は? 地理的位置づけと両首都の名前くらいしか思い浮かばないのだから、心許ない。国境を隔てた土地柄の違いとか、それが住民に及ぼしてきた影響のありやなしやなどにまだ考えが及びかねている。

 が旅を終えて訪問各地を振りかえると、何らかの違いが浮き彫りされてくる。
 思い当たる町でぼくなりの直感を羅列すると、

バルセロナ ガウディ、フランス文化
マドリード 混然一体、西欧化
トレド、グラナダ ジプシー、イスラム
リスボン 伝統、元気、西欧・北欧

 いうまでもなく、半島自体の地勢が魅力的だから、歴史的に外部からの侵攻、せめぎ合いの拠点になってきた。ローマ帝国、キリスト、イスラム、アラブ、ハプスブルグ、ゲルマン、ジプシー……、ヴァイキングまでも。
 その結果が現在に至る各地の風土となり、住民の気質や文化・伝統として根付いてきたのだろう。そんな空気を感じた。

…………………………

 尻切れトンボだが、2005年5月に10日間かけて旅したイベリア半島横断の紀行文を締めくくることにする。
 体験も8年前となると、記憶あいまいを思い知らされた。それを逆手にとって、真偽不明の幻想の世界で書いてみようか。夢幻(ゆめまぼろし)にとんでもない脱線はつきものだから、それにこと借りて70歳台の近況あれこれも差し挟んでやろう。
 そんな魂胆が、結果的にわが「中高年の元気!」において、この紀行文を長ったらしくしてしまった。仕上げの朗読が終わってみれば、多分2時間半は超えているだろう。

 「人迷惑な超長駄文」と、しらけたご感想を予想する。そこまで読み続けてくれる方々がいるかどうか。
 が、70歳の古希が過ぎてもうすぐ3年目。記憶力・行動力の減退に逆らえない今日この頃の〝カラ元気!〟だ。意気だけはまだ盛んな〝自己満足の産物〟ということにしていただきたい。

…………………………

番外 スペイン今景色、数点
Coming Back by the Pictures of Present Spain

 この紀行文をスペイン語堪能のKさんに見せたら、
「私、昨年スペインに行ってきました。バルセロナ、マドリード、そしてマヨルカ島です。どの地でも現地の友だちに案内してもらい、大いに楽しむことができました。マヨルカ島では友だちの家に泊めてもらいましたよ」
 と言って、
「写真、ご参考まで」
 お言葉に甘えて、本項への掲載を許してもらった。
 Kさんの〝スペイン今景色〟で、8年前の〝幻想紀行文〟から2013年の現実に舞い戻ることにする。

サグラダ・ファミリア(バルセロナ)
グエル公園(バルセロナ)
カルトゥハ修道院にある
ショパンのピアノ(マヨルカ島)
マヨルカ島の夕日
スペイン今景色、その他の写真
Part6 朗読(16:49) on
総朗読時間 2:36:57
<5.リスボンと周辺
雑記帳第74話
「回想・イベリア半島2005」
おわり
0.タイムスリップ 1.コスタ・アズル 2.マドリード
3.トレドと近郊 4.アンダルシア 5.リスボンと周辺
6.アラカルト
和文 英文
再朗読(2023.08.01)
雑記帳第74話
「回想・イベリア半島 2005」
part0 part1 part2 part3 part4 part5 part6 total
9:32 24:16 18:54 23:44 25:11 23:59 14:48 2:20:24
<第73話
「新春雑感」
第75話>
ベネルクス3ヶ国
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