出会い二題
「ぶんさっきゃ」の人
11月24日、旅の3日目。いよいよ帰り。
弟宅を後にして、新宮行きバス停へぶらりぶらり。いまは無人の三輪崎駅前だと勘違いしていた。
首をかしげながら、近くにいた年配男性に尋ねると、「ずっと前はここにあったさかにの」と、丁寧に教えてくれる。
感謝しがてら、
「小芝 繁といいます。三輪崎へ墓参りと弟夫婦に会いに来ました」
そう言うと、顔を輝かせて、
「ほんま、あんた繁さんや。わし、ぶんさっきゃのまさふみ(政史)です」
彼によると、ぼくたちは遠い親戚にあたるらしい。ぼくも自然地の方言交じりで話が弾む。弟のこと、父母のこと、……、ぼくの知らないことが次々と飛び出す。
10数分、お互い夢中になって時を忘れた。
そういえば、もう一軒の親戚が「ひどいみゃ」。確か、ぼくの家は「まつだや」。他に「かだいみゃ」、「しんたや」、「……」。昔、親父の時代は、姓をこんな家号で呼んでいたようだ。
料理人のレオさん
11月25日、旅の最終日。
朝食は7時から和洋中のバイキング。プレートを手に料理の並んだテーブルを見回っていると、オムレツを作っている料理人が目についた。どうやら日本人ではなさそうだ。声をかける。
「Good morning. How are you?」
彼は即座に、
「Fine, thanks. How are you?」
「Where are you from?」
「I'm from Czek.」
チェコ人なのだ。手を休めるグッドタイミングだったか、しばらく会話に付き合ってくれた。
ぼくの知るチェコは、首都のプラハとモルダウと作曲家のスメタナくらい。いつぞや当地を訪れたときに立ち寄った素晴らしい田舎町が浮かんだが、名前を思い出せない。
「Isn't it Český Krumlov (Crumlaw) ?」
そのとおり。チェスキー・クルモロフだったのだ。
「Why do you live here in Japan?」
「My wife is a Japanese. I like Japan.」
あまり邪魔をしてはと、その場を離れた。
食後、見渡すと他の調理場で小休憩の模様。笑顔で撮影に応じてくれた。ここでもぼくのたどたどしい言葉に気さくに受け答えし、祖国チェコを自慢し、日本をもっと好きだと強調した。
フロントで彼の名を尋ねると、レオさんとのこと。旅のいいおまけをいただいた。
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