初日(11月22日)は旅行社指定のホテル・ハーヴェスト南紀田辺(田辺市)泊。白浜空港からバスの便なし。タクシー利用を余儀なくされた。
一気に新宮まで行くこともできるが、初日の宿泊のみツアー料金に含まれているこのホテルを無駄にする手はない。
翌朝、田辺駅から特急くろしお1号で新宮へ。12時前に着くと、弟が改札口で待っていてくれた。彼は、数えで喜寿を迎えたぼくの2歳下。
昼食は弟宅で、奥様(ぼくはずっとノブやんと呼んでいる)手作りのもてなしを受ける。ぼくの最大好物はサンマ(秋刀魚)の姿寿司。それをご承知で、生きのいい馴染みの姿が食卓にあり。一本平らげてしまった。
よもやま話に夢中になって、時計はもはや午後2時前。急ぎ父母の墓参りに出かける。
墓地は母校光洋中学校の近くで、弟宅から徒歩20~30分。途中で霊前に捧げるしきび(樒平)を買って墓地に着く。
小村ではあれ、三輪崎の住民大半の先祖が眠る墓地だから広い。が、わが先祖の墓の在り処を忘れるほど耄碌はしていない。水満杯のバケツと柄杓と箒を手にして父母の墓へ。
弟夫婦がきれいに整備してくれている。ありがとう。ぼくたちはただ、しきびを追加して水をやり、線香を捧げ、合掌するだけだ。あれこれ思いを致しながら、30分ほど亡き両親の懐に抱かれた。
午後4時過ぎて弟宅に帰り着く。
6畳二間の部屋に案内される。弟はこれからDVDを見せたいようだが、ぼくは家具のしつらえに見入ってしまった。ほとんどがシックな色合い。いつから始めたのだろう。弟の生きがいともいえる趣味のようで、漆塗りで仕上げた木工細工だ。器、テーブル、書棚、サイドボード、…。両部屋とも彼の作品群で際立っている。
ここで1時間のDVDを楽しむ。
「三輪崎の鯨踊」
(平成26年度文化庁「文化遺産を活かした地域活性化事業」)
企画:新宮市伝統文化継承事業実行委員会、三輪崎郷土芸能保存会
故郷三輪崎自慢の民俗舞踊で、青年たち10数人が踊り、囃子は笛と太鼓。
「ヨヨイーエー、突いたや 三輪崎組はサ 三輪崎組はサ」で始まる「殿中踊り」
(ヨヨイエー)
突いたや三輪崎組はサ
(ハア三輪崎組はサ)
親もとりそえ 子もそえて
前のロクロへかがすを付けてサ
(ハアかがすを付けてサ)
大背美巻くよな ひまもない
組は栄える殿様組はサ
(ハア殿様組はサ)
旦那栄える いつまでも
竹になりたやお城の竹にサ
(ハアお城の竹にサ)
これは祝いの しるし竹
船は着いたや五ヶ所の浦にサ
(ハア五ヶ所の浦にサ)
いざや参らん 伊勢さまへ
(ソリャ 一国二国三国一ジャー)
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「ヨヨイーエー、今日は吉日きぬた打つ アーヨーイヨイ」で始まる「綾踊り」
(ヨヨイエー)
今日は吉日きぬた打つ (アヨーイヨイ)
今日は吉日きぬた打つ
お方出てみよ子もつれて (アーきぬた)
なんとさえたる枕やら (アヨーイヨイ)
なんとさえたる枕やら
よいと夜中に目をさます (アーきぬた)
淀の川瀬の水車 (アヨーイヨイ)
淀の川瀬の水車
誰を待つやらくるくると (アーきぬた)
沖の長須に背美を問えば (アヨーイヨイ)
沖の長須に背美を問えば
背美は来る来る後へ来る (アーきぬた)
伊勢のようだで吹く笛は (アヨーイヨイ)
伊勢のようだで吹く笛は
響き渡るぞ宮川へ (ヨヨイエー)
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最近この鯨踊り、日本遺産に認定されたようだ。当然のこと。
御多分に漏れず、三輪崎も過疎化がひどい。もはや年寄りの町だ。その中にあって、鯨踊りは意気軒高。青年連中が、気合い・掛け声豊かに、踊りが自然に盛り上がる。江戸時代以来百年近く前まで、雄々しくも代々受け継がれてきた銛と網の鯨漁。その仕草が見事に舞踊化されて、今では優美な舞台芸能である。
小学5年の児童に、授業の一環として取り入れられている光景が画面に出た。子どもたちの真剣な表情・身振り、一方で華やいだ雰囲気。着実に受け継がれている。
…………
夕刻6時頃からノブやん(奥様)手作りの各種豪華料理で、両夫婦4人の宴。熊野牛の牛肉ふんだんの鍋料理、秋刀魚寿司、地魚の刺身各種、……。
4人とも70才の古希を越えている。それも手伝ってか、歯に衣着せぬ話のやり取りが自然活気を増す。尾ひれも深みも自由気ままに、赴くままに遊泳する。
雑談・世間話はこの際関係なし。それぞれがいまどんなことをしているかに始まって、兄弟のやり取りを主軸に話が進む。
弟の話は、幅が広く奥行きも深い。古書をよく読み、消化している。……三輪崎の村祭り過去・現在、俳句、漆、正法眼蔵、万葉集~新古今和歌集、芭蕉、蕪村、良寛、落語、クラシック、ジャズ、故郷を売り出すには、平家物語、太平記、応仁の乱、明治維新が文明開化の名のもとに犯した罪(廃仏毀釈、日本古来・固有の歴史切り捨て)、高浜虚子(去年今年貫く棒の如きもの)、……。
兄弟といえども、弟がこれほど楽しく尽きせず話してくれたのは初めてだ。お互い心行くまで語らい、奥様方も愉快に付き合ってくれた。
いつしか夜中10時を過ぎている。名残惜しく一件落着とした。
翌朝の写真
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