1.前置き
3.鈴島、黒潮公園
2.墓参、語らい
4.あれこれ
2.墓参、語らい
 初日(11月22日)は旅行社指定のホテル・ハーヴェスト南紀田辺(田辺市)泊。白浜空港からバスの便なし。タクシー利用を余儀なくされた。
 一気に新宮まで行くこともできるが、初日の宿泊のみツアー料金に含まれているこのホテルを無駄にする手はない。
 翌朝、田辺駅から特急くろしお1号で新宮へ。12時前に着くと、弟が改札口で待っていてくれた。彼は、数えで喜寿を迎えたぼくの2歳下。
 昼食は弟宅で、奥様(ぼくはずっとノブやんと呼んでいる)手作りのもてなしを受ける。ぼくの最大好物はサンマ(秋刀魚)の姿寿司。それをご承知で、生きのいい馴染みの姿が食卓にあり。一本平らげてしまった。
 よもやま話に夢中になって、時計はもはや午後2時前。急ぎ父母の墓参りに出かける。

 墓地は母校光洋中学校の近くで、弟宅から徒歩20~30分。途中で霊前に捧げるしきび(樒平)を買って墓地に着く。
 小村ではあれ、三輪崎の住民大半の先祖が眠る墓地だから広い。が、わが先祖の墓の在り処(ありか)を忘れるほど耄碌(もうろく)はしていない。水満杯のバケツと柄杓(ひしゃく)(ほうき)を手にして父母の墓へ。
 弟夫婦がきれいに整備してくれている。ありがとう。ぼくたちはただ、しきびを追加して水をやり、線香を捧げ、合掌するだけだ。あれこれ思いを致しながら、30分ほど亡き両親の(ふところ)に抱かれた。

 午後4時過ぎて弟宅に帰り着く。
 6畳二間(ふたま)の部屋に案内される。弟はこれからDVDを見せたいようだが、ぼくは家具のしつらえに見入ってしまった。ほとんどがシックな色合い。いつから始めたのだろう。弟の生きがいともいえる趣味のようで、漆塗りで仕上げた木工細工だ。(うつわ)、テーブル、書棚、サイドボード、…。両部屋とも彼の作品群で際立っている。

 ここで1時間のDVDを楽しむ。

三輪崎の鯨踊(くじらおどり)
(平成26年度文化庁「文化遺産を活かした地域活性化事業」)
企画:新宮市伝統文化継承事業実行委員会、三輪崎郷土芸能保存会

 故郷三輪崎自慢の民俗舞踊で、青年たち10数人が踊り、囃子(はやし)は笛と太鼓。
 「ヨヨイーエー、突いたや 三輪崎組はサ 三輪崎組はサ」で始まる殿中(でんちゅう)踊り」

 

(ヨヨイエー)
突いたや三輪崎組はサ
 (ハア三輪崎組はサ)
  親もとりそえ 子もそえて
前のロクロへかがすを付けてサ
 (ハアかがすを付けてサ)
  大背美巻くよな ひまもない
組は栄える殿様組はサ
 (ハア殿様組はサ)
  旦那栄える いつまでも
竹になりたやお城の竹にサ
 (ハアお城の竹にサ)
  これは祝いの しるし竹
船は着いたや五ヶ所の浦にサ
 (ハア五ヶ所の浦にサ)
  いざや参らん 伊勢さまへ
  (ソリャ 一国二国三国一ジャー)

 「ヨヨイーエー、今日は吉日きぬた打つ アーヨーイヨイ」で始まる(あや)踊り」

 

(ヨヨイエー)
今日は吉日きぬた打つ (アヨーイヨイ)
今日は吉日きぬた打つ
  お方出てみよ子もつれて (アーきぬた)
なんとさえたる枕やら (アヨーイヨイ)
なんとさえたる枕やら
  よいと夜中に目をさます (アーきぬた)
淀の川瀬の水車 (アヨーイヨイ)
淀の川瀬の水車
  誰を待つやらくるくると (アーきぬた)
沖の長須に背美を問えば (アヨーイヨイ)
沖の長須に背美を問えば
  背美は来る来る後へ来る (アーきぬた)

伊勢のようだで吹く笛は (アヨーイヨイ)
伊勢のようだで吹く笛は
  響き渡るぞ宮川へ (ヨヨイエー)

 最近この鯨踊り、日本遺産に認定されたようだ。当然のこと。
 御多分に漏れず、三輪崎も過疎化がひどい。もはや年寄りの町だ。その中にあって、鯨踊りは意気軒高。青年連中が、気合い・掛け声豊かに、踊りが自然に盛り上がる。江戸時代以来百年近く前まで、雄々しくも代々受け継がれてきた(もり)と網の鯨漁。その仕草が見事に舞踊化されて、今では優美な舞台芸能である。
 小学5年の児童に、授業の一環として取り入れられている光景が画面に出た。子どもたちの真剣な表情・身振り、一方で華やいだ雰囲気。着実に受け継がれている。

 …………
 夕刻6時頃からノブやん(奥様)手作りの各種豪華料理で、両夫婦4人の宴。熊野牛の牛肉ふんだんの鍋料理、秋刀魚(さんま)寿司、地魚の刺身各種、……。
 4人とも70才の古希を越えている。それも手伝ってか、歯に衣着せぬ話のやり取りが自然活気を増す。尾ひれも深みも自由気ままに、赴くままに遊泳する。
 雑談・世間話はこの際関係なし。それぞれがいまどんなことをしているかに始まって、兄弟のやり取りを主軸に話が進む。
 弟の話は、幅が広く奥行きも深い。古書をよく読み、消化している。……三輪崎の村祭り過去・現在、俳句、漆、正法眼蔵、万葉集~新古今和歌集、芭蕉、蕪村、良寛、落語、クラシック、ジャズ、故郷を売り出すには、平家物語、太平記、応仁の乱、明治維新が文明開化の名のもとに犯した罪(廃仏毀釈、日本古来・固有の歴史切り捨て)、高浜虚子(去年(こぞ)今年貫く棒の如きもの)、……。
兄弟といえども、弟がこれほど楽しく尽きせず話してくれたのは初めてだ。お互い心行くまで語らい、奥様方も愉快に付き合ってくれた。
 いつしか夜中10時を過ぎている。名残惜しく一件落着とした。

翌朝の写真

朗読 (9' 07")
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