この旅も、クラシック音楽と落語を入れたiPodを携行した。アップル社製の80ギガバイト・ポケット型ハードディスクである。国内・海外を問わず旅行には欠かせない。
家では生活必需品になっている。昼間は書斎でアンプに繋ぎ、戸外ではヘッドホンで、クラシック音楽を楽しむ。就寝の際は、枕元の小型スピーカーに接続して、主に落語を聴く。睡魔の訪れを待ちながら。
胸ポケットに悠々入る小型にして、いかに大容量であるか。
現在、80ギガバイトの3分の2にあたる52ギガを使用中。700時間分、つまり丸々29日分の憩いのひととき≠凝縮している。さらにまだ空き容量があるのだから驚きだ。
数ヶ月前に160ギガバイトという二倍容量(実物の大きさは同じ)が発売された。80ギガに満足しながら、もう一方の触手が動いている。問題は値段…………
愛用品の中身は、6割がクラシックで、残りを落語が占めている。ということは、落語の1話を30分とすれば、700時間x0.4/0.5時間で、ざっと560話が詰まっているということになる。一晩多くとも3話で闇に落ちるから、半年分以上の安眠剤である。
どんな出し物が入っているか。それは次章で取り上げるとして、全ての落語が安眠剤というわけではない。
怪談話や人情噺は、余計に目がさえてきそうで、寝床では概ね敬遠している。真景累ヶ淵、牡丹燈籠、お藤松五郎、ちきり伊勢屋……。圓生や彦六、最近では桂歌丸が得意とするところだが、志ん生も結構やっている。
真面目すぎるのも安眠には不向きである。鰍沢、猫の忠信、士族のうなぎ、一人酒盛……。
騒がしい噺家は一席目はいいとしても……、安眠が主題ということで。
つまるところ、古今亭志ん生がいい。この師匠の落とし話で大概は安らかな眠りに落ちる。ときには桂文治、三遊亭円遊、春風亭柳橋をトリとしている。
寝付きにいい出し物は?
黄金餅、居残り左平次、稽古屋、源平盛衰記、五人廻し、三枚起請、鹿政談、寝床(とくに志ん生名演集20)、替わり目、親子酒、茶金(はてなの茶碗)、二番煎じ、文違い、淀五郎……
独りよがりはこれくらいにしておく。やはり志ん生が多い。
同じ出し物でも噺家によって、また演じた高座によって大いに違う。iPodの中から、桂文楽十八番(おはこ)の「寝床」一つ取っても、一席の長さがこんなにも違う。噺家によってマクラも内容も、オチまで、てんでバラバラ。
志ん生 |
|
28:36 |
|
NHK落語名人選 |
志ん生 |
|
23:57 |
|
志ん生落語集 |
志ん生 |
|
27:58 |
|
志ん生名演集 |
文楽 |
|
27:56 |
|
NHK落語名人選 |
可楽 |
|
22:43 |
|
NHK落語名人選 |
圓生 |
|
17:18 |
|
圓生名演集 |
金馬 |
|
19:50 |
|
金馬落語傑作集 |
金馬 |
|
27:32 |
|
金馬名演集 |
枝雀 |
|
43:41 |
|
枝雀落語ライブ |
談志 |
|
34:26 |
|
談志ひとり会 |
|
「志ん生名演集」での高座がぼくの安眠常備薬である。悠揚として、ゆとりの運びは、湯船で気ままに手足を伸ばしたくつろぎ感覚に誘っていく…………
|