その1 その2 その3 その4
4.アラカルト
(1) おやひこさま系図

 弥彦神社でいただいたパンフレットの中にこんなのがあった。
 「弥彦神社の大神さまは、天照さまの、ひ孫です」として、系図と、ぼくには興味深い説明。少々長いが引用する。

 おやひこさまは弥彦に下向される前は、紀伊半島の熊野にお住まいでした。和歌山県新宮市にある神倉神社(かみくらじんじゃ)(資料では「かんのくらじんじゃ」)は、おやひこさまが当時、高倉下命(たかくらじのみこと)と呼ばれていた頃の社(やしろ)です。
 その後、神武天皇が東征された折、高倉下命は紀伊から大和へご案内され、やがて大和の地に大和朝廷が成立したのです。
 橿原の宮で神武天皇が即位して4年ほど後に、高倉下命は天皇より高志(こし)<越の国>の国造りの命令を受けられました。
 高倉下命たち一行は現在の長岡市寺泊野積海岸に上陸し、その後弥彦の地に居をかまえた命は、天香山命(あめのかごやまのみこと)と呼ばれ、越後の国の開拓に力を注がれたのです。
 野積浜には「弥彦神社御上陸地」と刻まれた高さ1bほどの石碑が建てられています。
(「峰の桜」おやひこさま物語より) 
 なにを隠そう。ぼくは和歌山県新宮市の出身。神倉神社も、そのご神体の「ごとびき岩」も重々承知。毎年2月に行われる伝統のお燈祭りに参加したことはないが、男たちが駆け降りる険しい石段は何度も上り下りした。
 記事に虚を突かれながら、思いがけない感慨に浸ったのだった。弥彦神社の原点は新宮≠ネのだ!
(2) 弥彦神社と伊東忠太

 弥彦神社の名は、15年ほど前、のちに小説「怪獣の棲む講堂物語」として完成させた大学母校の兼松講堂と建築の巨人・伊東忠太の関わりを追跡していたときに知った。
 明治から昭和にかけて、伊東忠太は数多くの有名な神社仏閣の設計・建築に携わっている。

平安神宮、明治神宮、豊国廟、可睡斎護国塔、弥彦神社、上杉神社、祇園閣、震災記念堂、中山法華寺聖教殿、築地本願寺、湯島聖堂、明善寺、……

 中で弥彦神社は、火災による再建に際し、大正5年(1916)、伊東忠太の設計で建築された。
 後に、彼唯一の西洋風建築、それも当時大学講堂はゴシック建築≠ェ定着していたときに、旧式のロマネスク様式とし、講堂内部は大半が彼の手作りによる妖怪・怪獣であふれることになった。

 東京商科大学(現・一橋大学)の原点は、福沢諭吉、渋沢栄一らが深く関わった森有礼の私塾「商法講習所」だ。
 私塾から公立へ、苦難の曲折の末、東京高商を経て大学に昇格した数年後に関東大震災に見舞われ神田の校舎はほぼ壊滅(1927)。都心から武蔵野の原野(現・国立(くにたち)市)への移転を決めた。その学園キャンパスの中心となる講堂は、兼松商店の寄贈申し入れという恩恵、それに豊かな予算にも恵まれた結果、当時では思いもよらぬ建築の巨人といわれる東京帝大教授・伊東忠太に話を持ち込むことになる。忠太先生、超ご多忙にも拘わらず、設計・建築の全てを引き受けた。彼が擁する有力な手勢を率いて。
 ご自身、半年以上、本郷から東京駅に出て、片道2時間の電車に揺られ、国立(くにたち)まで通いとおした。なぜ?
 そして本件につながる当大学の尋常でない歴史と、勝海舟にはじまる歴史上の人物たちの関わり。
 ぼくは60代の数年間、2回り近く先輩の中村達夫氏にお供して、調べまくった。先輩の強い依頼で長編小説「怪獣の棲む講堂物語」を仕上げた思い出はいまのぼくの支えの一つだ。

 …………
 弥彦神社は、期待に反して、ぼくに伊東忠太を連想させる何ものも残していなかった。神社のどなたも忠太をご存じなさそうで、「伊藤忠ですか?」と逆に聞き返され、大いに戸惑ったのだった。

(3) 四季の宿・みのや旅館

 弥彦村では当然として、近隣でも有名な宿とのこと。佇まいといい、内部の飾りつけといい、心遣いが伝わるスタッフのもてなしといい、文句なし。
 食事は朝晩とも2度味わったが、献立・味わい・食堂の雰囲気、……、全てに満足した。
 なぜか、残念ながら旅館そのものの写真は玄関の杉玉と、食事のときのみ。いくつかをここに残す。

初日夕食
2日目朝食
2日目夕食
乾杯酒 うめ酒 天婦羅 双見揚げ 紫蘇巻き
舞茸 薬味 美味出汁
先付け 〆鰤 温物 新玉葱グラタン
前菜 酒菜盛り合わせ 酢の物 茹でずわい蟹
他盛り合わせ
お造り 海の幸盛り合わせ
妻一式
食事 麓のこしひかり米
漬物
味噌汁
焼肴 鰆の木の芽焼き
あしらい
デザート プリン
寺泊産 鮃のしゃぶしゃぶ
薬味 ポン酢
弥彦温泉 四季の宿・みのや
最終日朝食
(4) 帰途
 3日目(5月18日)11時、シャトルバスで旅館発。
 燕三条駅で、12時31分、「Maxとき320号」に乗車。
 14時28分、東京駅着。
 新浦安駅のアトレで夕食(酒のつまみ)の買い物。
 ダンロップ・スポーツプラザで入浴。スポーツせず。
 やはり自宅。ゆったりくつろぎ、旅の楽しい余韻に浸りながら弥彦村の地酒で夕食とした。
朗読 9:19
朗読計 16:53
<その3 その4 (おわり)
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再朗読(2023.08.30)
小話集第62話「2018年5月、新潟県弥彦村3日間」
17:17
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