Part1 再朗読完了
Part2 いままで
Part3 これから
Part2 いままで
 前の「朗読奮闘記」(雑記帳第34話)の朗読日付は2003年11月になっている。
 その年夏、大学先輩の中村達夫氏に講演いただいた。浅草の「すみだ郷土文化資料館」で。この資料館には、中村氏が学生時代ボート部で活躍した頃の艇庫模型、オール等の記念品、写真といった思い出の数々が広いスペースで展示されている。
向島艇庫(左:東京帝大、右:東京商大)
 氏は何事も一旦お引き受けになれば、お座なりにすますことを嫌われる。事前準備は念が入っている。
 今度も、わざわざ大学母校の体験的裏面史≠ニおっしゃられ、エピソード盛り沢山のようだ。それに数年後には米寿を迎えられる氏のことだから、またとない機会になるかもしれない。当方も録音準備に最大注意して臨んだ。
 ソニーと三洋電機のICレコーダー2台を演壇に設えてある。三洋のは確かその年の発売で、新聞のコラムで見つけ、ケーズデンキで詳細確認して、購入に踏み切った製品だ。この日にあわせてテストを何度も繰り返してきた。
 収録後、テープ起こしはソニーでやって、雑記帳第32話「母校の話」としてお披露目した。……といえばこの作業いとも容易く執り行ったようだが、楽ではなかった。数日間青息吐息でやっと仕上げた記憶が今もあり、それを知る中村氏の感謝の笑みは忘れない。語り軽妙にして内容重厚の一部始終は、時間を見てお立ち寄りいただきたい。
 三洋に録音したのは、いまもハードディスクに保存してある。正味1時間48分23秒で、録音容量は36メガバイト、MP3方式だ。
 念のため、その時使った2つの道具の写真をここにも掲載する。いつ失ってしまったか、どちらもいまは手元にない。
ソニー(ICD-R200) 三洋(ICR-B90RM)
 朗読熱は以前からあったにせよ、それを喜々としてやるようになったのは、録音方式がMP3の三洋を手に入れてからだ。「朗読を簡単に録音して保存できる。機が熟せば、インターネットでお披露目!」
 つまり、2003年がぼくの本格朗読元年ということになる。
 ただし、朗読の最適録音品質≠ニは? 容量少なくして、ラジオ並みの自然な音声≠ナあるためには? これがいまに至るも、全面解決したとはいえない悩みの種だ。
 購入当初の録音はなぜかどこにも見当たらないが、使いはじめはモノラルの最低品質に設定したはずだ。容量の許す限り、一話でも多くインターネットにアップしたい一心で。
 300+100メガバイトがホームページ容量枠だったころの話だ。「某日@某所」なるインターネット・アルバム集の広場を開設して、写真・画像の貼り付けだけで容量の大半を食ったはずだし、「山歩き」紀行文も写真を多用した。だから、アップした朗読時間は、たとえ最低品質であったにせよ、何時間分もなかった。
 その蚊の泣くような哀れなわが朗読音声が、それでも彼方のサイトから自宅PCに届くまでの恐ろしく長かったこと! 15分程度の一区切りが聞こえてくるまでいうに1分以上、待てるはずがない!
 昨年3月に今のを購入するまで、右の写真のサンヨー・ボイスレコーダーを使用していた。二代目だ。
 なぜ前のを買い換えてこれにしたのか、なぜこれをやめて今の三代目にしたのか……。昔ほど新もの食いでなくなっているから、前のに飽きたわけでも、がむしゃらに新製品に飛びついたわけでもない。理由はただ一つ、──よりよい品質を求めて。
 では、これが前のに比べてどれだけよくなったのか。その後継たる現在のも含めて、確かな答を持ち合わせていない。メジャーな改善の結果新機種が世に出たのであろうし、その旨宣伝文句が華やかにうたっている。
 がその前に、ぼくは前のをベストに使いこなしていたかどうか、心許ない。初代の機種から録音様式(MP3)はまったく同じだし、録音品質も持続時間も、あの機種にどれほどの不満があったのだろうか。新機種の「機能強化」項目で「シメタ!」という何らかのヒントを得たことは間違いない。それが「だから買い換えてよかった」という単純な公式に至らないところが、スカッとした気分になれない所以である。
 正直、現在の録音状況・使いこなしでいうと、ぼくの場合、今の最新機種と二代目との優劣はつけづらい。設定を、モノラル・ハイクオリティにしているだけだからだ。強いて言えば、今のは頭に付属の集音マイクをつけている。前のは別売りで、買わなかった。
 決定的な違いは録音の仕方だ。上の写真のボイスレコーダーでは、末永く残したいから、か細いモノラルよりもステレオ録音に設定した。ただし大容量になってしまっては手に負えなくなるからと、品質は最低より一つ上のスタンダード・モードで。
 このやり方を2年ばかり続けたのだが、難点が二つ。
 まず、朗読の声を左右スピーカーの真ん中から聞こえてこさせるのは、簡単なようでいて至難の業なのだ。ステレオモードは会議や雑談の場合には威力を発揮するが、朗読にはむいてないのではないか? ヘッドホンの音声がこの疑問にだめを押した。静かなはずの周囲が思ったほど静かでないし、落ち着かなくするのが音声の出どころ。まっすぐマイクに向かったはずなのに、音声は左右どちらかに片寄って出てくる。どれだけ微調整して録音しても、悩みは解決しないままであった。
 それでも「雑記帳」「山歩き」「小話集」あわせて40時間以上は朗読・録音した。証拠物件は外付けハードディスクに保管してある。
 そんなとき、昨年3月だった。新製品を三洋電機が発売開始したのは。
 …………
 難点とおぼしき二つめもステレオモードが絡む。
 ぼくが落語ファンであることはあちこちのエッセイで触れた。寄席へ足を運ぶファンではなく、もっぱら寝床寄席だ。安眠剤とは恐れ多いが、もう十数年も床につく毎に世話になっている。
 古典ものが性に合い、江戸落語に加えて、最近では上方落語もよく聴いている。米朝、文珍、枝雀……。ぼくの安眠を最も助けてくれているのが古今亭志ん生だ。世話物・怪談はともかく、他は全てよい。可楽、圓生、文治、円遊、……寝床で親しい。
 なにせ120ギガバイトのiPodに400時間程度は入っているから、出し物に事欠かない。
 それらの音源のほとんどがモノラル録音! 上方の噺家や文治や談志はステレオ音源が多いが、どちらかといえばぼくにはモノラルのほうがしっくり来る。臨場感は劣るのだろうが、そのほうがいい場合もあって、落語がそれに当てはまりそうだ。寝床で聴くせいでもあろう。
 聴きながらつらつら考えていた。朗読も、ステレオよりモノラルのほうが適しているのかもしれないゾ。音質を下げた分、スタンダード・モードをハイクオリティ・モードに上げても容量的には変わらないのではないか……容量の考え方は甘かったが、ちょうどその頃三洋の新製品と出会った。
 仕様を詳細今までのと比べると、数値では相当強化されているようだ。が、ぼくのニーズからいって、買い換える意味があるのだろうか。迷うところである。しかし…………
 今度のは集音マイク付! 見栄えは、いかにも「あなたの朗読は私におまかせください」といっている。これが決め手となった。
 紙箱から取り出して、さて設定。
 マイクのボタンをモノラルとし、音質は最上から一つ下のHQ(ハイクオリティ)モードにする。最上のXHQなら落語並みの音質だろうが、容量食いはうわばみクラスでたまったものではない。早速この品質で試してみた。
 前のステレオ音源に比べて聴き応えなさそうだが、本当にそうだろうか。聞き比べればステレオに軍配を上げたくもなるが、そっちは左右バランスの問題という重大欠陥を秘めている。
 スピーカーの音量を調整する。モノラル──いけるじゃないか!
……………………
 朗読元年より3年前の2000年にさかのぼる。
 MIDI音楽家のYさんにずいぶん世話になっていた。「中高年の元気!」初期の頃で、このエッセイ・紀行文主体のHPを広く世に認めてもらおうと涙ぐましい努力をしていた頃だ。
 YさんのMIDI音楽をBGMに使わせていただければ! MIDIは音声そのものではなく、音声信号だから、容量は何ほども必要としない。それでいて、文章ばかりのHPには心強い味方になろう。
 彼は快く引き受けてくれ、「中高年の元気!」のために作曲までしてくれた。
 その後朗読付にするにともない、BGMは「中高年の元気!」の表舞台から姿を消すことになったが、数百曲に上る彼の演奏は、現在「BGM Saloon」というHPに独立させて公開している。
 そのYさんにある日、「中高年の元気!」を朗読付にしたい旨打ち明けた。
 彼は秋葉原や大型電気店に付き合ってくれて、マイク、卓上型MDプレーヤー、イコライザー、MP3変換ソフト……、煩わしい選択を助けてくれた。自身で組み立ててくれた小道具もある。
 …………
 のど自慢さながらに、マイクスタンドを自分の背丈に合わせてそれに向かう。マイクのケーブルはMDプレーヤーに繋がれ、録音待ちになっている。
 いざ朗読。山歩き紀行文だけでその頃30話はあったから、材料に事欠かない。
1999年9月 台風さ中の山行 (山歩き第25話)
 スイッチを入れたり切ったり、試行錯誤を繰り返した末にやっと一区切りの録音完了。
 それをイコライザー経由で、MP3ファイルとして、パソコンのハードディスクに保存する。最初はYさんが船橋市の津田沼からはるばるお越しになって手助けしてくれた。
 …………
 録音済みのMD(ミニディスク)36枚が手元にある。数枚再生テストしてみた。10年近く前なのに劣化していない。間延びした甘ったるい声は自身首をすくめるが、見事にあのときの録音そのままだ。
 が、なぜかその頃のMP3ファイルがどのハードディスクにもない。念入りに心当たりを調べたが、あきらめることにした。イコライザーもマイクスタンドも変換ソフトもいまはどこへやら。MDに音源が残っているだけまだましということにしておく。ラベルに記した録音日付を見たら、2000年正月にはじまりその年のが多く、2003年正月のもある。
 (……このエッセイを書き終えるところで、やっと山歩き数話の当時を偲ばせるMP3録音を見つけた。次章Part3末尾の一つ、2001年のがそれである)。
 だからサンヨーの初代MP3ボイスレコーダーに出会ったのは、2003年正月を過ぎた頃のはずだ。次の二代目も、現在の三代目も、録音が残っていて比較できる。
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