Part1
あらすじ
Part2
最上川
Part3
山寺
 バスツアーで山形・蔵王へ2泊3日の旅をした。(2002年8月25-27日)
 2日目は一日自由参加で、オプショナルツアーが用意されている。芭蕉の"おくのほそ道"で有名な「最上川下りと山寺参拝」で、ぼくたち夫婦はこれが目当てだった。
 6月から7月にかけて、東京・江東区の芭蕉記念館にて、宮脇真彦先生(立正大学助教授)の「季節の中の芭蕉」(5回講座)を受講したばかりで、余韻覚めやっていない。

1日目(8月25日)

 台風がらみで数日大降りが続いた雨も、前日止んだ。
 早朝6時半、家を出ると曇り空。湿気は少し残っているが、予報どおり晴れてきそうだ。風はない。妻もぼくも身軽を心がけ、荷物はボストンバッグとウエストポーチだけにした。
 8時半、新宿駅から地下道を通って集合場所の京王プラザホテル横に出たら、すでに晴れていて、まぶしい。ミンミンゼミがしきりに鳴いている。
 9時、大型ツアーバスで新宿出発。途中さいたま新都心で数人乗せて、総勢31人プラス添乗員。バスガイドはつかなかった。 

 蔵王御釜

 東北自動車道の白石インターを降りて、蔵王エコーラインに入る。ヘビがとぐろを巻いたようなくねくねの急坂だ。狭い崖(がけ)道を対向車にひやひやしながら上って、蔵王五色岳(1674m)に着く。15時。
 山頂は火口湖で、釜状のためお釜≠ニ呼ぶ。最近では明治28年(1895)に噴火したそうだ。
「お釜が見られるのは年に何回もないのですよ! 晴れていても見えないことが多いのです」
 添乗員がぼくたちの幸運を強調した。

 寒い! 下界では30度を超えていたのに、ここは16度。風もある。
 黄色味を帯びた裸の山肌に囲まれて、向こう下方にお釜が見えてきた。まさにエメラルドグリーン。ぐるりに鉄柵が施され、これ以上近寄れない。こちら観光客の嬌声を知らぬげに孤高然と沈黙を保っている。
 彼方の連山は熊野岳(1841m)、地蔵岳(1736m)、刈田岳(1758m)、名号峰(みょうごうほう、1490m)。見晴らしがいいから、どの山もくっきりしている。"荒涼"たるここ蔵王五色岳の山頂に比べて、スカッとした山並みの景色だった。

お釜
お釜 お釜 お釜

 17時、蔵王温泉”おおみや旅館”着。
「今日はみなさんラッキーです! 広場で盆踊りがあるんですよ。普段はお盆前後なんですが、今年はJRの催しにあわせて昨日と今日の2日間です」
 旅館の案内役がうれしそうに話してくれた。
 温泉にゆったり浸かり、夕食の後は、薦めに従って広場へ急ぐ。下り道10分ほどだった。途中、川の流れが「ゴーッ」と、夜の静寂(しじま)を爽快に破っていた。 

 蔵王温泉盆踊り

 賑やかなお祭り広場では、瀧山太鼓(りゅうざんだいこ)の連打たけなわだった。

蔵王温泉盆踊り

 正面舞台で、若い男女が勇壮に鼓を打ちつづける。汗がところ構わずほとばしっている。
 「ドドーン、ドン」と大太鼓。受けて小太鼓が「ダダダダ、ダダダ」。バチの「タタターン」も冴えて、協奏が次第に勢いを増す。その大小強弱の連打が夜空に舞い散る。
 音は大きければいい、強ければいいというものではない。技巧のみが客を酔わせるものでもない。それぞれの奏者が歯を食いしばって自分の太鼓に熱中している姿が感動を呼ぶ。全体のハーモニーもみごとだ。大勢の見物客は惜しみない拍手を送り、それに応えてのアンコールは圧巻だった。

蔵王温泉盆踊り 蔵王温泉盆踊り 蔵王温泉盆踊り
蔵王温泉盆踊り 蔵王温泉盆踊り 蔵王温泉盆踊り

 次いで、花笠音頭の盆踊り。
 広場中央の舞台で、笛・太鼓・三味線の囃子に、歌と掛け合いは地の女性。丸い袖舞台を中高年のきれいどころが"花笠"衣装で踊って回る。
 花笠音頭だけの盆踊りだった。舞台を取り巻いて踊る行列は観光客も大勢入って、見る人よりも多い。隣りの地の人らしき男性が話しかけてきた。
「山形県ではね。小中学校の運動会は必ず花笠音頭。体育の必須科目ですから、知らない人はいないですよ」
 感心するぼくに、さらに説明が勢いづく。
「笠音頭が本当の踊り。阿波踊りと同じで、男衆が立派に見えます。ただし本物はむずかしいので、盆踊りのは易しくしてあるんですよ。笠に花をつけて、花笠音頭です」
 男性に引っ張られて、ぼくも踊りの輪に加わった。

蔵王温泉盆踊り

 ふるまい酒は"男山"の生(なま)。調子に乗ってお代わりを二度したら、天狗のお面に睨まれた。

蔵王温泉盆踊り 蔵王温泉盆踊り 蔵王温泉盆踊り 蔵王温泉盆踊り
 
2日目(8月26日) 最上川と山寺

 早朝8時におおみや旅館を出発して、夕刻5時帰館。大型バスで20人のオプショナル・ツアー、丸一日をフル活用できた。
 11時には最上川"白糸の滝"乗船場に着く。早速最上川ライン下りとなる。
 舟上で早めの昼食はそばといも煮。はっぴ姿で鉢巻は豆絞りのガイド嬢が得意ののどで民謡を聞かせる。澄んだ声がのどかな川下りに調和して、さながら「五月雨をあつめて涼し最上川」だった。

最上川ライン下り

 午後1時前には白糸の滝を後にして、バスはもときた道を引返すかたちになる。2時、山寺山門近くの駐車場に着いた。
 土産物屋で全員杖を借りて山門をくぐる。奥の院までの石段は1103段だ。蝉時雨が耳をつんざく。駄句一つ。

かなへたし命かぎりに蝉の声

山寺

 最上川、山寺、いずれも松尾芭蕉"おくのほそ道"の名所である。ぼくたちは、これが目当てだった。
 だからこのくだりは、「Part2 最上川」「Part3 山寺」として詳しく書くことにする。
 

3日目(8月27日) 喜多方と五色沼

 8時、おおみや旅館出発。途中"東光の酒蔵"(山形県米沢市)を見学、試飲。大吟醸の冷酒は《やはり!》だったが、舌の実力(ふところ具合?)と妻の渋い顔に折れて、みやげは次点の特別本醸造"東光美味酒(うまざけ)"にした。

東光酒蔵
東光酒蔵

 11時、喜多方着。町中ラーメン屋だらけだから面白い。車中で配られたイラストマップもラーメン屋で塗りつぶされている。どこで食するか。
 12時半の集合時刻まで1時間半のフリータイム。その間に適当な店を探し、適当なラーメンを注文し、十分に味わうことができるか。
 そこはそこ、添乗員が"適当な"3店を教えてくれた。坂内(ばんない)食堂、まこと食堂、源来軒。
 まこと食堂を探して入る(たまたま他の2店は本日休業≠セった)。
 ぼくがチャーシューメン、妻は中華そば(普通のラーメン)にする。ぼくはまだ意欲ほどに食欲わかず、妻の満足げな顔とは裏腹に、かなり残してしまった。
 早い時間帯でもあったから、並ぶことなく奥まった和室に案内されたが、帰り、出口は長蛇の列をなしている。やはり町きっての人気の店だった。
 テーブルで隣り合わせた地の婦人が上記の3店に加えて、お薦め店を2軒教えてくれた。念のため、メモしておく。あべ食堂、まつり亭。 

 五色沼自然探勝路

 裏磐梯五色沼(福島県)に立ち寄った。ツアー最終日の目玉だ。磐梯山の真北で、桧原湖に接している。磐梯山噴火が生んだ湖沼群という。
 毘沙門沼から柳沼まで、標高750m〜850mのほぼ平坦なコース(3.6km)を、1時から2時半までゆっくり歩く。が、ここは妻が少し気分すぐれず、ぼくのひとり歩きとなった。
 曲がりくねった山路を気ままに歩く。雑木林が天を覆って、わずかな木洩れ日が天然の静かな息づかいを感じさせる。
 赤沼、みどろ沼、竜沼、弁天沼、瑠璃沼、青沼、そして柳沼。水の色ってこんなに変化するものか。木々の緑とそっくりなのから、同じ緑でも濃淡さまざまな色模様、そして水色、灰色、濃紺、……。同じ沼でも一色ではなく、微妙に、またくっきりと色分けされている。

五色沼

 二つ思い出した。その一。
 3年前(1999年)の10月、山仲間と奥日光戦場ヶ原へ行ったとき。山道から切込湖を林越しに見ての錯覚。その状況を別文から転記する。(山歩き第26話「戦場ヶ原、切込湖・刈込湖」)

 切込湖に向かっていた。と、右前方が開けて、濃く青い空色、そう、コバルトブルーが下一面に広がった。まるでキャンバスに向かって巨大な絵筆で原色を殴りつけたよう……。
《なんだ、これ!?》
 しばらく唖然として見入った。
 その濃い青絵の具の向こうに目を転じると、今度は一面まだらの緑。黄ばんでいたり、赤や白い斑点もある。
《こんな景色初めてだ! しかし、なぜ?》
 ぼくの大仰なけげん顔に山仲間が気づいて、
「切込湖だよ!」
《そうだ、切込湖! 切込湖なのだ!》
 錯覚から目が覚めた。コバルトブルーはまさに空。そして湖水向こうの斑(まだら)模様は紅葉の山。湖面の逆景だった!

   その二、学生時代。
 クラスメートのY君、M君と三人で磐梯山へ登ろうとしたときのことだ。もう40年も前になる。あのとき、ここを歩いた。山には無縁のM君とぼくはただ疲れ果て、「なんの因果で磐梯山」と、Y君の励ましをよそに、この五色沼散策でお茶を濁したのだった。
 これも別文(山歩き第20話「尾瀬・燧ケ岳」)のを引用する。

 大学時代に学友3人で磐梯へ行った。2泊3日。生まれてはじめてのハイキングだった。Y君はワンゲル部で、ぼくたち2人を誘った。五色沼を通った記憶はあるが、磐梯山には登らなかった。Y君のかいがいしいお世話とは裏腹に、M君とぼくはただただ疲れて、目的の磐梯山頂をあきらめたのだった。
 以降、Y君は誘わなかった。ぼくも山やハイキングはそれきりになった。 

 終点の柳沼が見えると、妻が迎えに来ていて手を振った。顔色がよくなっている。
「急がなくっちゃ。みんな待ってるわよ!」
 一瞬慌てたが、後続がまだいるのをいいことに、数枚スナップ写真を追加した。

五色沼 五色沼 五色沼
ふりむけば湖(うみ)は粧う山抱けり 恵美子
 

 3日間とも好天に恵まれてよかった。晴れてよし、降ってよしとはいえ、雨だと目当ての最上川、山寺はきつかったはずだ。中止になったかもしれないし、そうでなくても芭蕉の旅をどれほど味わえたことか。
 帰りがけ、栃木県益子焼センターで休憩のあと、4時半、塩原インターで東北自動車道に入る。順調だとナイター中継はまだ終わってないだろう。

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