7月25日早朝、川苔山登山に出かける途中、駅売店で求めた朝日朝刊のコラムが目を引いた。猪瀬直樹氏の『明日も夕焼け』だ。
 こう書き出していた。
 『三波春夫の大阪万博の歌(1970)は1960年代の学生運動の終焉を告げ、ある日、目覚めたら、経済大国になっていた=x

 ”1970年”は、ちょうど30年前になる。国内では万博の他にも赤軍派のよど号ハイジャック、三島由紀夫の自決……。大きな年だった。
 その前年の1969年も、国内では、東大の入試中止、東名と名神の高速道接続、原子力船「むつ」進水……。国際的には、アポロ11号、ベトナム和平への動き、中国の文革強化、リビアでクーデター、ニューヨーク近郊でウッドストック、……。

出発前 1970年5月末に、Penn State留学を終えて帰国した。
 妻と1才半の長女を残して羽田を飛び立ってからちょうど1年だった。彼の地滞在中は、極度のホームシックに悩まされたものだ。
 上記日本の動き、世界の動きを振り返ると、「アポロ11号」「ウッドストック」「よど号事件」以外は身近でなかったようだ。

Red Army

 1970年、帰国を2ヶ月後に控えた3月31日、事件が日本で起きた。
 DougやMark、Daveがしきりに『Red Army, Red Army』と囃し立てた。ラジオ、テレビ、New York Timesも、Red Army, Red Army……。赤軍の『よど号乗っ取り事件』である。
 ちょうどその頃、毛沢東の『Red Book』(毛語録)が学生の間でよく読まれていた。だからMarkたちの頭は赤軍の行動と毛沢東の毛語録が”革命(?)”のキーワードで幾分交錯して、誤解もあった。
 ぼくは”赤軍”自体なじみがなかったから、衝撃的で恥ずかしい出来事だったが、縁遠いことでもあった。
 帰国後も、前年から日本で流行った歌謡曲『黒猫のタンゴ』同様、事件の話になると、《1年の不在がかくも!》、余計疎外の念を深くした。 

Woodstock

 1969年夏、ニューヨーク近郊の田舎で催された『Woodstock』は、いまも語り継がれている。それほど画期的なロックフェスティバルだった。
 あのとき、たった3日間の若者によるロックイベントが、アメリカ中の学生を興奮で包んでしまった。ぼくもつられて興奮していた。Markたちの部屋でロックばかり聞きまくった。

 いまも大事にしているそのときのLIFE Special Edition『Woodstock Music Festival』を開いてみると、40万人の観衆を前に、こんな歌手たちが競演していた(主な出演者をアルファベット順に並べるとこうなる)。

 Joan Baez, The Band, Blood, Sweat and Tears, Paul Butterfield Blues Band, Canned Heat, Joe Cocker, Country Joe and the Fish, Creedence Clearwater Revival, Crosby, Stills, Nash and Young, Greatful Dead, Arlo Guthrie, Tim Hardin, Keef Hartley, Richie Havens, Jimi Hendrix, Incredible String Band, Jefferson Airplane, Janis Joplin, Joe McDonald, Melanie, Mountain, Quill, Santana, John Sebastian, Sha-Na-Na, Ravi Shankar, Sly and the Family Stone, Bert Sommer, Sweetwater, Ten Years After, The Who, Johney Winter
 

Joan Baez

Creedence Clearwater Revival

Janis Joplin

Jimi Hendrix

Arlo Guthrie

John Sebastian

Crosby, Stills, Nash and Young

The Band

Richie Havens

Jorma Kaukonen

Mike Shrieve
SANTANA

Grace Slick

Roger Daltrey
The Who

 そう、あの頃学生の間で人気No.1はIron Butterflyの"In-A-Gadda-Da-Vida"だった。いわゆる17分音楽だ。ぼくもずいぶん聞き込んだ。LPはいまも大事にラックに立てかけてある。
 この曲も大好きだが……。もう1曲、いまもときどきハミングする曲が、WoodstockのCreedence Clearwater Revival (CCR)、彼らの曲だ。

Have You Ever Seen The Rain (雨を見たかい)
Someone told me long ago
There's a calm before the storm
I know it's been coming for some time
……
……
I won't know
Have you ever seen the rain
Coming down on a sunny day

 正直いって1年の留学は英語だけでも無理だった。まして授業は惨めだった。
 五感とは面白いものである。口がふさがれた分、耳が幾分息づいたようだ。Woodstockのロックが耳から心地よく消化された。ロックは現地の学生の匂いを肌に感じさせた。
 …………

 川苔山は登り晴れ、山頂で黒雲、下りは雷と豪雨、降り立つと快晴。
 猪瀬氏のコラムからとんでもないところへ連想が発展した。急変する山の天気は、ずいぶん前の思い出を運んできて、CCRをハミングさせたのだった。

雨上がりの山道

第22話「川苔山」 おわり 

「番外」朗読(7'22") on
 
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健脚向
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山の天気
番外
雨を見たかい
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再朗読(2023.04.09)
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