1.初日
2.二日目
3.三日目
Part2 二日目 8月2日(木)
  昨日親しくなった同年配のご夫婦は山歩きが何よりの趣味という。四阿山(あずまやさん)に近い当ホテル「パルコール嬬恋」はトレッキングの拠点でもある。お二人はそのつもりで来た。今朝は早くからどのコースへ出発したのだろうか。いずれも「四阿山探勝」だが、「野地平コース」? 「茨木山コース」? 「鳥居峠コース」? (下の写真は昨日ホテル前の広っぱにて奥様と妻)。

 ぼくたちも10年前だったら? いつぞや嵐の中の大菩薩峠山行で寒さに震え、以来山歩きは好きでない妻と、腰痛で接骨院通いのぼくとでは、(はな)からトレッキングはお呼びでない。
 一日中ホテルで温水プールと温泉三昧も悪くはないが、退屈しそうだ。バスで5分という「バラギ湖散策」は最終日の楽しみとしている。
 二日目をどう過ごすか? 建前はともかく、本音はすでに軽井沢駅前のショッピングプラザに決めてある。
 この旅を思い立ったときから、妻の頭にいつぞやのアウトレットが浮かんでいたのではないか。
 そう、5年前の秋、北軽井沢の「グリーンプラザ軽井沢」に3泊した。その間に、かのショッピングプラザのアウトレットで半日過ごした。二人とも思い思いの買い物を志したが、希望は満たされなかったと記憶する。
 あのホテルとショッピングプラザの位置関係について、ホテル従業員との立ち話を思い出す。こう言っていた。「北軽井沢≠ニは宣伝用で、ここは嬬恋(つまごい)、群馬県嬬恋村なんです。アウトレットのあたりは長野県側で、本物の軽井沢≠ナす」。
 5年前の思い残しがあるのだろうか、妻の希望に従い、本日は軽井沢のアウトレット「プリンス・ショッピングプラザ」へ行くことにした。

 ホテル「パルコール嬬恋」もそこは心得ていて、送迎バスが10時にホテルを発ち、16時に軽井沢駅前で拾ってくれる。片道1時間半の道のりだ。二日目はこれを利用した。

 早めの昼食は駅北口の「本陣」(右写真)でざる蕎麦にする。意欲よりも理性優先で普通盛り。妻はなんの感想ももらさないが、結構いける。
 蕎麦(そば)≠ノは少しこだわりがある。下に一項を設けて書く。
 さてこれからずっとアウトレットに入り浸りでもあるまい。徒歩15分のところに「雲場池」という見どころがあると聞き、散策を提案するが、妻はいい顔をしない。すでに気持ちはウィンドーショッピングに向かっているようだ。やむなく従うことにした。

 ショッピングプラザの手前で、妻と互いのケータイを確認しあう。帰りのバス発車時刻にあわせて、プラザ入口のスターバックスで待ち合わせることにした。つまり、それぞれのショッピングをそれぞれの好みと目的で楽しもうということである。
 このショッピングプラザの広さは並みでない。マンモスもいいところで、店舗は数知れない。腰痛に不安を抱えているぼくは、西側のWestとNew Westは行かないことにし、東側のモールをさまよった。

 これといったあてのないのも困ったものだ。衣類に関する限り正直ほしいものがない。だから2時間以上プラザをほっつき歩いて、買ったのはコーラのペットボトル1本だけだった。
 妻は? ほしいものが見つかったのかどうか、テニスのキャップとジーパンのみ。それでも気ままなフリータイムに満足そうだった。
 ぼくにとっては収獲少なくくたびれもうけの一日が過ぎ去り、空しい気持ちで帰りのホテル送迎バスに乗った。

 …………
 標高と気温はうまく比例しているようだ。標高1000mの軽井沢は日中25-27度、500m上の嬬恋村はその頃20-22度。テレビでは「東京都心は35度を超えました」と報道していた。

 7月27日からロンドンオリンピックがはじまり、激しい競技が繰り返されている。それが10日後に予定されている8月12日(現地時間)の閉会式まで続く。
 陸上・水泳・体操・サッカー・バレー・テニス・レスリング……、26競技に190を超える国々・地域から選手が参加しているという。今年から全種目とも男女がそれぞれ競いあう。
 ロンドンは日本より時差が8時間遅れだ。だから日本の正午はロンドンの早朝4時。ということは、向こうで各種競技が始まる頃は日本の夜。熱闘のピークのほとんどは真夜中から朝方にかけて集中している。
 ぼくはファンとして人並みに燃えているつもりだが、夜を徹してテレビにかじりつくほど体力と気力がともなわない。第一、夕方6時からの晩酌付夕食の習慣を、この期間に限って変えることはできない。
 つまり現実は、7時半にはトロンとして妻に「おやすみ」を告げ、夕刊片手に寝間へということになる。NHK-FMの音楽を聞きながら新聞を目で追って、まだ意識があればiPodに仕込んだ英語か落語を子守歌にし、9時頃には闇の世界に入っている。熱闘をリアルタイムで視聴できるはずがない。なでしこのサッカーだってだ。
 その代わり朝は早い。4時には床の中でNHKラジオの明日への言葉≠聞きながら、その頃配達される朝刊に目を通す。
 5時半の朝ズバ!≠待ちかねて、真夜中の熱演・激戦をみのもんたたちの解説付きでテレビ観戦する。
 このパタ―ンは旅行中も変わらない。「すでに終わっている」との気楽さをともなう観戦は、ぼくのような興奮に弱い(のみ)心臓男にはかえってよいと変な得心をしている。

 …………
 選手たちは、耳を塞いでも押し寄せる、競技場内外のひいきの引き倒し的外野席の喧噪に耐えてよく頑張っている。とくにテレビ・インターネットという文明の利器は諸刃の剣で、彼らの一挙手一投足がリアルタイムで世界中に知れわたってしまうのだから、選手たちにとっては誇らしさと裏腹に煩わしく、身に応えるものでもあろう。各選手とも自ら磨き上げた技術・実力のみならず、マスコミ攻勢というもう一つの重圧を背負っている。

食のこだわり

 美食家では決してないし食通でもないが、蕎麦(そば)・親子丼・ラーメン・チャーハンには少しこだわりがある。
 蕎麦については、各種乾麺を買って自宅で試している。調理がへたなせいか、未だ「これぞ!」に遭遇していない(蕎麦打ち教室に1年ほど通ったが、拙宅に道具をそろえることに限界を感じ、断念した)。
 だから「本陣」の手打ち蕎麦は、期待に近かったので(うなず)いた次第。

 ぼくたちの浦安市に、いわゆる食通を喜ばせる店はどれほどあるのだろうか? そして何に対してどこに?
 ぼくは大した舌を持ちあわせないし、ふところも軽い。ご託は一人前のくせに、「昼食に千円以上かけるなんて」派である。
 蕎麦について、一軒だけ気に入っている店があり、ぼくの舌とのどには「本陣」を上回る。そして安い! 中央図書館近くの「砂場」だ。
 5年ほど前までは図書館に来るごとに立ち寄り、館内で月一度の文章講座に通っていた頃は夕方の終了後に仲間と行きつけになり、焼酎のそば湯割りのあとはもり蕎麦に舌鼓したものだ。
 蕎麦打ちにこり出してから遠ざかったままになっているから、現在の味を保証するものではない。
 親子丼は、残念ながら故郷新宮の味に匹敵する店を見つけていない。ぼくにとってはおふくろの味でもある。

 そう、ラーメンとチャーハン(炒飯)。……やっと見つけた、といってよい。中央郵便局近くの「倉一廊(そういちろう)」だ。
 中央図書館への道すがらにあるから、ときどき昼食に立ち寄る。ラーメン、炒飯、焼きそば、冷やし中華……、どれもぼくの舌にあう。値段もほどほどだし。
 だから昼食どきに図書館へ行く場合は、行きがけ「倉一廊」によく入る。
 欠点が一つ、といってもわが胃袋の融通のなさだが。ぼくには多すぎるのだ。そのためいつも少し残している。
 この前もしくじった。いずれも小盛りで、ラーメンと炒飯にした。二つ足して千円以下はふところの許容範囲だ。味はどちらもいつものとおりでOK。
 食欲は普段どおりなのに、どちらの器も半分残さざるをえなかった。ぼくの胃袋は小盛りのどちらか一品だけで十分だったようだ。
 だから、さらに半分盛りのミニ≠ェあればなあと、食べ残しを恨めしく見つめたのだった。

 こと食に関する限り、「それにしても浦安という町は」と慨嘆する前に、楽しくなってきた自前料理の品質向上とレパートリーを増やすことにいそしんでいる。

…………………………
「パルコール嬬恋」の各種営業

 「パルコール嬬恋」はその名のとおりリゾートホテル≠ナある。夏のゴルフ場と冬のスキー場を併営している。
 スキー場とスキー客専用のホテル「パルコール嬬恋スキーリゾート」は12月から4月上旬まで、「パルコール嬬恋ゴルフコース」は4月中旬から11月下旬までの営業とか。

 スキーは門外漢だし、ゴルフはもはやなんの興味もない。だからまたの滞在機会があっても、ホテル二大看板の恩恵に浴することはないだろう。
 さりとてゴルフは昔取った杵柄(きねづか)だから、軽井沢アウトレット往復の道すがら興味深くコースを垣間見、パンフレットにあるレイアウトや18ホールのヤーデージ表をかつての自分に返って見つめた。
 たしかにひと頃なら「ワンラウンド!」。そんな気持ちになったろう。標高1000m以上にして、レギュラーティで6300ヤードはあり、各ホールとも難と易が交錯しているようで、一ひねりを感じる。一日を楽しめそうだ。四阿山(あずまやさん)を正面に見はるかす18番グリーンで記念写真も悪くないし。

 高原のリゾートホテル≠セから館内も、自慢の和・洋・中華のレストランはもとより、各種の趣向が凝らされている。
 温水プール、ビリヤード、卓球台、スカッシュコート、それに大浴場「四阿山の湯」はもちろん天然温泉だ。

地名、等

 「嬬恋村」とはいい名を付けたものだと、由来を調べた。インターネットの某サイトはこう説明している。正否はともかく、紹介しておく。

 「第12代景行天皇の皇子「日本武尊(やもとたけるのみこと)」の東征中に、海の神の怒りを静めるために愛妻「弟橘姫(おとたちばなひめ)」が海に身を投じました。その東征の帰路、碓日坂(うすひのさか)(今の鳥居峠)にお立ちになり、亡き妻を追慕のあまり「吾嬬者耶(あずまはや)」(ああ、わが妻よ、恋しい)とお嘆きになって妻をいとおしまれたという故事にちなんで嬬恋村と名付けられました。」

 では「パルコール」とは? Pal Call(s)=Aつまり友は呼んでいる≠ゥ? Nature Calls≠ネんて、つまらない連想をした。

 ホテル館内もひねった名前が目につく。
 フレンチレストラン「メルベイユ」(Merveilleux=すばらしい?)、和食レストラン「浅間」、中華レストラン「フローラ」(Flora=ローマ神話の、花と豊穣(ほうじょう)と春の女神?)……いずれもキャベツをはじめ地の高原野菜料理が売りとか。
 ぼくたちは朝・夕食ともすべて「メルベイユ」で、和・洋・中華満載のバイキングだった。
 そして3階のお夜食処「モンクール」(Mon Coeur =わが心?)。朝食後に中で少しくつろがせていただいた。そのあとフロントに行って、
 「たしかヴェルレーヌの詩にこの言葉があったはずですよ」。
 ひけらかし屋のぼくはフロントのSさんに自慢たらしく話しかける。意外、彼女は先刻承知だった。
 「ヴェルレーヌのちまたに雨の降る如く≠フ詩に出てきますね」と。

 内心忸怩(じくじ)たる気持ちを込めて、雑記帳第42話「フランス紀行2007」からその詩「巷に雨の降る如く」(詩集『言葉なき恋歌』より)を引用する。

Il pleure dans mon coeur 巷に雨の降る如く
Comme il pleut sur la ville; わが心にも涙ふる。
Quelle est cette langueur かくも心ににじみ入る
Qui penetre mon coeur? このかなしみはなにやらん?
堀口大學訳
二日目、その他の写真
朗読(20:36)  on
小話集第51話「真夏の嬬恋村三日間 2012」
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