1.初日
2.二日目
3.三日目

8月3日9時、ホテル横の広場にて
サマースクールの小学生たち(大型バス3台で)
Part1 初日 8月1日(水)
 2012年の夏。
  暑い! 浦安のマンションを出て、思わず妻と顔を見あわせた。朝7時にして、太陽はギラギラ。すでに気温は30度付近なのだろう。メガネをサングラスに取り替える。
 JRで、舞浜→東京→新宿。
 新宿駅から地下道を都庁方面へ、新宿住友ビル地階のクラブツーリズム集合場所到着、8時半。
 つかの間の避暑気分を味わおうとこのバスツアーを見つけ、群馬県嬬恋(つまごい)村のホテルに2泊することにした。
 ツアータイトルはふるっている。
標高1500b・満天の星と270度のパノラマ
爽やかな嬬恋高原・豪華温泉リゾートホテル3日間

 滞在中は自由行動だから、朝と夜の食事時間以外はなんの制約もない。

 上野始発のツアーバスは、新宿で9時前にぼくたちを、練馬でも数名乗せて、一行40名となる。
 高速道入口手前の信号待ちで軽い追突をされた。車はほんのかすり傷程度で、乗客を含めなんの支障もなかったが、警察の実地検分は長く、1時間遅れとなった。
 高速道を乗り継ぎ、渋川で一般道へおりる。碓氷(うすい)峠・横川の「峠の茶屋」で昼食。評判の釜飯は何度か味わっているから、今回は二人ともとろろそばにした。
 標高1500mにある「パルコール嬬恋リゾートホテル」着は、やはり1時間遅れの3時過ぎだった。

 気温は現在25度らしい。地元の人たちの体感はどうなのだろうか。ぼくは「避暑地に来た」と実感する。

 標高1500mの意味することは? 「東京の温度より10度以上は低い」という話だ。今ごろあちらは35度を超えているのだろう。
 この辺りでこの高さはまだ森林限界に二百bほど足りないから、高山植物にはお目にかかれないだろう。が、地の花々にとっては旬。キャベツに負けじと咲き競っている(百花競演の写真は、じっくり見て回った最終三日目にゆずる)。
…………………………
 嬬恋村を拠点としての楽しみ方は幾つかありそうだ。車での旅なら、半径1時間程度の円を描くと、結構サイトスポットが見つかる。鬼押出し、浅間高原、軽井沢、小諸、……なにしろ当地は上信越高原国立公園のまん中なのだから。
 ぼくたちのように車がなくても、ホテル近辺の田園・雑木林の散歩以外に、近くの山をトレッキング、バラギ湖周辺散策、それに軽井沢だ。左腰に不安のあるぼくの事情を鑑み、二日目の丸一日はホテルバスの送り迎えがある軽井沢へ行くことにした。
 最終の三日目は午後2時までフリータイムになっている。バラギ湖はゆっくり歩いても1時間はかからないそうだから、その周辺の散策を考えている。
…………………………
 さて初日、到着してから夕食までは?
 部屋に荷物を置いて時計を見るとまだ3時半。湯船に直行は早すぎる。夕刻までホテルの近くをぶらぶらすることにした。

 ホテルを出たところで、期待を込めて西を見る。この高原にして異常といえる暑い天気のせいだろうか、時間的にダメなのか、雄姿の全貌が拝めるはずの浅間山は、中腹から上が厚い雲に覆われていた。

峰雲が浅間の噴煙隠しけり 詠み人しるを

 15分ほど(ゆる)やかな下り傾斜を歩くと、当地自慢のキャベツ畑が広がっている。畑≠フ字にだまされてはいけない。一面、こんな具合だ。

 キャベツ草原の奥に広い運動公園があり、子どもたちがサッカーの練習に励んでいる。あぜ道をランニングしている姿も見える。そよ風が心地よい。

 電線に群れ集って止まったり、周囲を目まぐるしく飛び回っているイワツバメについては三日目で述べる。

 夕食は3階レストラン「メルベイユ」にて、和・洋・中華のバイキング。ぼくも妻もいささか食べ過ぎ。プラス、ぼくは飲み過ぎ。明日の節制を誓い合った。
 食後はほろ酔い気分でプラネタリウムを楽しむ。おかげで外に出忘れ、満天の星を見損なった。

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芭蕉の句碑

 鬼押出し付近からだったかな。ホテルに向かうバス車窓に「芭蕉句碑」の標識が何回か目についた。まさか!? 芭蕉はこの辺も歩いたのだろうか? 数年深川「芭蕉記念館」での講読会に通っただけで、それ以上の芭蕉を知らない身として、恥ずかしながら新発見だと喜んだ。
 「やはり!」というか、芭蕉は今でいう群馬県のどこにも足跡を残していない。帰って「芭蕉ハンドブック」(三省堂)を辿って確かめた。

 句碑は嬬恋村大字大笹字塩ノ島の「大笹神社」の境内にあるそうで、建立は芭蕉没後159年を経た嘉永6年(1853年)という。碑面の句は元禄4年(1691年)に編まれた『猿蓑』からとった。碑文の書者は一夏庵竹烟(いっかあんちくえん)(草津の蕉風俳人)。

雲雀啼くなかの拍子やきじの声 芭蕉

 句の意味は雲雀(ひばり)の細い声に拍子をとるかのように甲高い(きじ)の声がきこえる≠ニいったところか。
 句碑の由来について、嬬恋村教育委員会の説明文を借りる。

 「碑の背面には世話人の名が8人書き連ねられており、何れも地元の俳人です。この碑の開眼連歌が催された時、竹烟の他20余名の参加が記録されていることからも当時の郷土文化がかなり充実していたことがうかがえます。この句碑は芭蕉の俳句の作り方「蕉風」を正しく伝えたいというねがいから建立されたと考えられています。」
初日、その他の写真
朗読(10:28)  on
小話集第51話「夏の嬬恋村三日間2012」
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