1. 黒部・魚津地域4日間(前半)
2. 黒部・魚津地域4日間(後半)
2.黒部・魚津地域4日間(後半)

三日目、10月28日(日)

黒部峡谷

 今回の旅行は妻の喜寿を祝いつつ、もっぱら温泉でゆったり。但し一日は黒部峡谷観光。それ以外は頭になかった。
 その観光を二日目に考えていたが、天気予報も朝方の空模様も芳しくない。やむなく日延べしたのだった。
 本日も曇り空だが大した雨にはならないと見た。9時、シャトルバスで黒部宇奈月温泉駅へ。ここからが見込み大違いで、あわてることになる。
 隣接する新黒部駅で30分待ちはともかく、列車はまだトロッコ電車ではなく、行き先も黒部峡谷ならず。ここは富山地方鉄道の駅で、列車終点が宇奈月温泉駅。そこまで30分を要した。そこから少し歩いて宇奈月駅へ。ここが黒部峡谷鉄道。トロッコ電車の始発駅だった。
 終点の欅平(けやきだいら)まで距離は20.1km。トロッコ電車は数カ所途中停車しながら、1時間半かけて走った。
 新黒部駅からトロッコ電車終点の欅平まで乗り継ぎを含めて合計2時間以上の区間を、30分程度と高をくくっていたのだから情けない。致命傷だった。
 おまけに新しく手に入れたパンフレットによると、黒部峡谷の散策エリアは、トロッコ電車の始点・終点とその区間に4ヶ所もある。宇奈月、黒薙(くろなぎ)鐘釣(かねつり)、欅平だ。ぼくの頭にあったのは、どうやら欅平エリアだけだった。それもそこの一ヶ所に黒部峡谷と黒四ダムがあるとの憶測!
 帰りのホテル・シャトルバスの最終が午後4時。あきらめて、タクシーか何かを利用すればいいのに、これしか頭にないから、黒部峡谷での観光時間が極端に制限される。ざっと見積もったところでは、ここ欅平での自由時間は1時間だけだ。妻も期待する今回目玉の観光だが、ぼくのバツ悪い平謝りをしぶしぶ受け入れた。

 したがって黒部峡谷観光は、欅平駅往復のトロッコ電車と、欅平エリアも駅すぐそこの河原展望台までの10分コースのみ。前日Fご夫妻が熱心に薦めてくれた名剣温泉や猿飛峡展望台は当然行かず仕舞い。イワナ料理もあきらめざるを得なかった。
 が、妻が寒さに耐えながら、「峡谷の紅葉は特別、来てよかったわ」
 ホッと胸をなでおろした。

 ずいぶん昔になるが、映画「黒部の太陽」を見たはずだ。1968年公開で、熊井啓監督、石原裕次郎と三船敏郎が主演した。黒部ダム建設の苦闘がテーマだったとしか印象にないのはなぜか。
 日本一深いV字谷という大自然の中、トロッコ電車から幾つかあの水力発電所が見えた。「黒部ダムの水は取水口から山中に掘られた専用トンネルを通って、10km下流の地下に建設された黒部川第四発電所に送られて、ダムとの545mの落差で発電する。この発電所の名称から黒四ダムとも呼ばれる」(Wikipedia)

 このトロッコ電車。
 Fご夫妻の注意にもかかわらず、窓付き車両が往復とも満員とあって、青天井の車両に乗らざるを得なかった。ものすごく寒い! セーター、レインコート、妻もぼくも持ってきたすべてを着込んで、何とか耐えた。

黒部峡谷、その他の写真

 4時のシャトルバスに危うくセーフ。おかげで夕食前に、ホテル自慢の壁画温泉とカルナの館温泉をはしごできた。

最終日、10月29日(月)

 東京へ帰る新幹線の予約は、黒部宇奈月温泉駅発18:45で、金太郎温泉ホテルから駅への最終シャトルバス発車は10:50。駅には10分で着く。
 それからの8時間弱、どのように過ごそうか? これといった当てもないままその時が来た。
 駅界隈には、隣接のギャラリー以外に何もない。ホテル・スタッフの申し訳なさそうな顔が事実を物語っている。彼女、コピー1枚を手に、最後にこう言った。
「路線バスで生地(いくじ)へ行かれては?」
 富山湾に面した港町で、新鮮な魚の料理店がお薦めとか。港周辺のぶらりぶらりも多少の時間つぶしになりそうだ。駅から30分ほどと言う。
 とりあえずはこのアドバイスに従うことにした。

黒部市生地

 新幹線の駅で荷物をロッカーに入れる。妻がトイレに行っている間に、地の人らしい女性が通りかかった。
「すみません。バスで生地へ行きたいのですが、……」
「すぐそこですが、私もその辺へ行きますので、ご案内します」
「妻を待っていますので、方向を教えていただければ……」
「迷われるかもしれませんから、一緒に行きましょう」
 そう言って、当然の如くに留まってくれる。そのうち妻が帰ってきた。
 すぐそこかも知れないが、5分ほど左右に曲がって駅ロータリーの停留所に着いた。
 何でもないことのようだが、自然に身に着いた思いやりがぼくたちに伝わった。一事が万事、富山県、少なくとも黒部・魚津地域の人たちの温かさ。

 …………
 路線バスで終点〝海の駅生地〟まで30分ほど、その間に思わざる発見をした。この辺がYKKの拠点なのだ。十幾つかのバス停がある中で、半数近くの冠名がYKKだ。吉田科学館、センターパーク、黒部古御堂工場、黒部栃沢工場、黒部荻生製造所。びっくりした。窓越しに眺めただけだが、どこも整備されている。
 一般公開のセンターパークは広い施設で、展示ばかりでなく昔のファスナーづくりも体験できるらしい。が、月曜日閉館。格好の時間つぶしならず。

 会社について、Wikipediaにこうある。
「YKKは旧社名吉田工業株式会社の略称で、Yは創業者・吉田忠雄氏(魚津市出身)の苗字。同社はスライドファスナーの生産が有名で、世界シェアの約45%を占める。黒部市に大規模な生産拠点を置く。」

 〝海の駅生地〟は「とれたて」みやげ物店と、「できたて」レストランからなっていた。
 「とれたて」でしばらくウィンドーショッピングのあと、「できたて」で昼食。妻は〝幻魚(げんげ)テンプラ定食〟、ぼくは〝イクラ丼〟。
 ぼくのはまあまあ、妻のはアタリ。1匹いただいたが、確かにうまい。小さな新発見だった。幻魚(げんげ)というこの魚、300mの深海にすむとか。名前自体がぼくたちには初耳。

 この地区、「清水(しょうず)の里」とも言われ、飲み水が自慢という。もちろんその美味もグラスで2杯味わった。

 13:40のバスで帰ることにして、40分は時間がある。簡易地図にある願楽寺へ歩くことにした。
 特記するでもないが、海岸ぶらりも含めて有効に時間つぶしできた。

地域観光ギャラリー

 駅に着いて、新幹線出発の18:45までまだ4時間。駅隣接の「黒部市地域観光ギャラリー」に入る。展示場は2階だ。

 黒部峡谷とその周辺というか、富山県東北部の山岳地帯を写真展示や映画(10分)、等で紹介している。なんとなく焦点定まらぬ目で展示を見回っていたところ、ここでも幸運のハプニング。
 学芸員なのだろう、シニア紳士が話しかけてきて、ぼくたち2人に、それこそ懇切丁寧・明快の説明が始まった。それが小一時間続く。

「3000m級の北アルプスから富山湾の深海まで高低差4000mのダイナミックな大自然が広がっています。そこには、雨、雪、氷河、清流、湧水などの水が巡り、天然の生け簀と言われるほど豊富な魚たちが生息しています。そして、それを活かしたこの地域独特の水の文化が息づいています」。

 こんな導入で、眼下のジオラマや各展示を指さしながらのご説明、感服し恐縮した。

 5時近い。そろそろお暇しようと窓越しに目をやると、なんと!
 4日間の黒部・宇奈月・魚津・金太郎温泉の旅、遠くで虹も名残惜しげにぼくたちを見送っていた。

 

10月29日、その他の写真

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ホテル金太郎温泉

 宇奈月温泉郷にあるホテルと勘違いしていた。
 着いてみると、そこから遠く離れた魚津市、しかもその郊外田園地域にあった。
 この3泊4日間、ずっとお世話になり、予想をはるかに超える好印象を得た。

 金太郎温泉の建物は、次のように配置されており、ぼくたちは光風閣別館の和室に泊まって、朝と晩、壁画大浴殿とカルナの館のどちらかで温泉に浸った。

 交通の便は悪くない。北陸新幹線の黒部宇奈月温泉駅からでも宇奈月温泉郷とつないでいる富山地方鉄道の新黒部駅からでも、また〝あいの風とやま鉄道〟の魚津駅からでも、ホテル・シャトルバスで10分だ。
 〝まさかりの金太郎〟にゆかりはないが、創業者・石黒七平氏が金太郎のように健康になるよう、との願いを込めて名付けたとか。創業:昭和40年(1965)。
 金太郎温泉は一軒宿の「金太郎温泉・光風閣」と併設の日帰り入浴施設「カルナの館」を経営しており、光風閣に宿泊の客はカルナの館を自由に利用できる。(〝カルナ〟とは、古代ローマ神話の〝健康を守る女神〟のこと)
 温泉の泉質は、全て硫黄泉の混合。源泉温度は75℃。

 3泊の間、温泉に浸かることと朝晩の食事だけだったが、ホテル全体をとおして客への心遣いの行き届いた温かさが、ごく自然だった。フロント・スタッフ、食堂のスタッフ、廊下で出会うスタッフ、全て。質問に対する答え方が口とジェスチャーだけではない。行きたい場所を尋ねると、そこまで連れてってくれる。
 食事では朝夕とも、受け答えが通り一遍ではなく、こちらの反応を微笑みをもって確かめている。テーブルも団体客とは離れており、二人だけのゆったりした旅の気分を味わわせてくれた。

 温泉施設は品があり見栄えも優れている一方、知らずゆったりした気分にさせてくれる。

壁画大浴殿
カルナの館

 バス待ちやくつろぎのひと時は、フロント横の広いラウンジにて。

独特な文字の「左馬」は、
昔から福を招く愛でたいもの、と言われている。

 本年度「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」に選ばれ、何年にもわたって「旅行業が選ぶ人気温泉旅館ホテル250選」の金太郎温泉。あとは乱撮りした写真にまかせることにする。

金太郎温泉、その他の写真

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 最終日、10月29日(月)夕刻5時過ぎ。
 ギャラリーを出て、売店で夕食用にサンドイッチを買う。あとは「はくたか574号」の発車時刻までプラットホームの待合室で作業となる。

 この旅の記録。どんな紀行文になることやら。現在書き進めているエッセイ「78才、半年過ぎて」の最終章にと考えていたが、折角だから雑記帳広場の第117話として独立させることにした。
 当分独りよがりの忙しさに浸れるはずだ。

富山県黒部・魚津4日間
おわり

Part 2 朗読: 21'57"
全朗読時間: 40'18"
Part 1 Part 2
1. 黒部・魚津地域4日間(前半)
2. 黒部・魚津地域4日間(後半)
和文 英文
再朗読(2023.09.02)
雑記帳第117話
「富山県黒部・魚津4日間」
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