1. 黒部・魚津地域4日間(前半)
2. 黒部・魚津地域4日間(後半)
1.黒部・魚津地域4日間(前半)
 妻の喜寿祝いに、旅行社のツアーを利用して、国内の温泉旅を考えていた。
 喜寿1ヶ月遅れになるが、10月下旬に格好の旅がある。

【黒部宇奈月温泉駅利用】 北陸新幹線で行く!
富山「金太郎温泉」に泊まる4日間

 金太郎温泉? 初の名だ。
 富山県? 6年前に高岡市と五箇山の相倉合掌集落、翌年に奥能登からの帰りがけ五箇山の菅沼合掌集落、……この2度の旅だけで、縁遠い県だ。隣の長野県はいくつも紀行文を残しているほどなのに。

  このツアー、阪急トラピックスの企画で、この温泉に3泊し、その間全て自由行動。このあたりは県北東部で、宇奈月温泉や一度見物したいと思っていた黒部峡谷も近そうだ。妻も気に入ったようで、さほどの思い入れなきまま申し込んだのだった。

初日、10月26日(金)

 8時にわが家を出発して、舞浜駅から京葉線で東京駅へ。
 北陸新幹線、9時32分発「はくたか557号」で2時間半近く、正午前に黒部宇奈月温泉駅着。この駅も初めての名だ。駅前待機のシャトルバスで金太郎温泉「光風閣」まで約10分。ここは富山県魚津市にある。黒部市の宇奈月温泉とはかなり離れていること、知らなかった。
 そして、どうやら金太郎温泉とは温泉郷の名ではなく、ホテル名なのだ。それにしても田園の田舎にしてこの大ホテル。

 ホテル内のレストラン「四季亭」で昼食の後は、部屋で午睡。
 起きたらまだ2時半。ホテル・スタッフによれば、近くは何の見所もないそうだが、この上天気。妻に急き立てられながら、周辺散策となった。
 犬も歩けば棒……、幸運が待ち受けていた。

 まずはホテルのだだっ広い庭園をそぞろ歩く。秋を彩る草木と赤とんぼ、小鳥やトンビの鳴き声に、妻ともども心和む。そしてやはり金太郎。まさかりを担いでいる。

 庭園を出てしばらく歩く。通り沿いも路地裏も、ここかしこに柿、柿、柿。たわわに色づいている。予期していたにせよ、これほどの実り! 数知れない。
 横っちょの路地向こうに、おばさんがせせらぎの土手につくもっているのが見える。妻に合図してそちらへ向かう。
 おばさん、海のサザエのような何かを幾つか無心に洗っている。まさかと思いながら、
「サザエですか?」
 とつぶやいたところ、妻が即座に、
「お父さん!」
 と、場違いな声かけをいさめる。
 おばさん、つくもったままゆっくり顎をあげて、一拍遅れで、
「里芋だよ」
 と、だれともなく話しかける。
 しかしぼくはこれほど大きくて奇妙な格好の里芋を見たことがない。半わかりで納得した。

 もう一人の若いおばさんが加わる。お隣りさんらしい。
 そこで里芋洗いのおばさん、よいしょと立ち上がり、目の前の柿の木を指さす。こぼれるほどに無数の柿の実。
「少し持って行ってもらおうか?}
 そう言ったあと、真横の自宅に戻ってハサミを携えて来る。10数個を切り取って袋に入れ、
「どうぞ。うちの富有柿だよ」
 ぼくは感謝この上ない。思わず、両手でおばさんの手を握る。
 いつの間にかお隣りさんがいないと思ったら、間もなく現れて、10個ほど柿の入った袋を「はいどうぞ」と、妻に。こちらは次郎柿とか。妻は頭を深々と下げて、お隣りさんにお辞儀する。
 ぼくが、「今日から4日間、金太郎温泉にお世話になります。妻の喜寿祝いです」と言うと、お二人さん、84才と79才と答える。どちらもぼくたちより年上だった。
 思わざる地の人との出会い。袋の柿は浦安の自宅に持ち帰り、おばさんたちのお気持ちのこもった美味を何日も楽しませていただけるだろう。

10月26日、その他の写真

二日目、10月27日(土)

 前から予報では終日雨。それも本格的とか。黒部峡谷観光は翌日とし、本日は雨でも差し障りなしということで、近くの魚津市街見物と決めていた。
 それが……、ホテル出発の10時には、どんよりだが一部晴れ間もほの見える。ラッキーな予感となった。
 夕刻には帰って、ホテル自慢の湯〝カルナの館〟をじっくり味わうことにする。

 シャトルバスで10分、魚津駅着。水族館を目当てに市内巡回バスに乗ることにした。3度は乗り降りするだろうということで、1日乗車券(500円)を求める。
 魚津水族館は、駅から西回り巡回バスの楕円形状順路のちょうど反対側で、30分はかかった。

 その長い区間がぼくたちに益してくれ、魚津市の車中観光となる。妻が頻繁に、
「あれ何?」「ちょっと、あの屋根!」「平屋が多いわね」「一昔前のよう」「……」。
 そのとおりなのだ。確かに道々、文化ホール、ミュージックホール、公民館、イベントホール、地域住民施設、……どの町でも目に付く建物がポツリポツリ見える。が、それ以外は、戸建ての和風住宅(それも平屋がほとんど)ばかりで、数十年以上前に建てられたとおぼしきもの、それなりの風情がある。逆にぼくたちは東京近郊の都市浦安で高層ビル群を見慣れてしまっているのだろう。

 結構バスの乗降客がある。そのほぼすべてがお年寄り(ぼくたちも、運転手さんも)。途中に産婦人科病院を見たが、大丈夫かなと、一瞬余計な心配をした。客の全てが乗降時に運転手さんに親しい声かけ。地域の温かみが伝わった。

魚津水族館

 正午前まで約1時間、数ヶ所に分かれた展示コーナーを見て回る。

 大正2年(1913)創立、現存の水族館として〝日本で最古〟。
 「北アルプスの渓流にすむイワナから富山湾のベニズワイガニまで、高低差4000mの環境に合わせた展示構成」だそうだ。
 富山の河川コーナー(渓流にすむイワナ、カジカ、トミヨ、……)、深海生物コーナー(水温約1℃、ベニズワイガニ、ゲンゲ、……)、富山湾大水槽(水量240トン、海中トンネル)、ジャングルコーナー、アザラシプール、屋外ペンギンプール、……1階から3階まで、なんと様々な展示。

魚津水族館、その他の写真

魚津埋没林博物館
(特別天然記念物)

 水族館見物終えて、妻が入場券を見ながら言う。
「お父さん、300円追加すれば埋没林博物館にも入れそう」
 窓口スタッフも気を利かせてくれ、ついでの見物となった。

 昼食を予定している〝海の駅蜃気楼(しんきろう)〟は同じ西回り巡回バスで20分ほど。その一つ手前の埋没林博物館で降りる。

 富山湾・大自然の不思議と称して、各展示会場に埋没林が在りのままで広がっている。河川の氾濫と海面上昇が複合して埋没したスギ原生林跡だ。
 2ヶ所に分かれていて、一方の乾燥展示館では、昭和5年(1930)の魚津港工事の際に発見された2000年前の埋没林を展示。
 もう一方の水中展示館では、2000年前に巨木がそびえていたというこの場に、地下水を満たして巨大樹根を大昔そのままに保存している。

1930年、魚津港で出土
(乾燥展示館)
2000年前のまま、発掘現場に地下水
(水中展示館)

 考古学趣味を持ち合わせないつらさ。ただ漫然と見回っただけだった。もったいなくも、すみません。
 春、4~5月、晴れて気温が上がり風の穏やかな日に、ここから蜃気楼が見えるとか。その展示会場もあった。

2000年5月13日実景↑ ↓蜃気楼

魚津埋没林博物館、その他の写真

 海の駅蜃気楼まで歩いて5分。中の和風レストラン「幻魚房(げんげぼう)」で遅めの昼食となる。
 ぼくはイクラ・カニ・エビの三種盛丼、妻は山菜そば。どちらもまあまあ。

 玄関にきらびやかな展示があった。帆掛け舟を模した万燈とか。

 魚津市諏訪神社の夏季祭礼で、このような万燈が数基活躍する。
 この祭礼は国の重要民俗文化財に指定され、ユネスコの無形文化遺産に登録されている。ご興味ある方は、8月の第一金曜日か土曜日にどうぞ。

 海の駅もさりながら、正面に広がる富山湾の海がよかった。白波のザーッ、ザーッ。騒がしいの逆、目にも耳にも心地よい。バス待ちの間、しばし見とれた。

 魚津駅まで巡回バスで15分ばかり。車中で妻が隣りの女性と話している。
「明日、黒部峡谷を予定しています」
「私たちは昨日行ってきました。景色もいいし、イワナ料理もいいし。……トロッコ電車は青天井の車両はダメ、とても寒いわよ。開閉できる窓のある車両にしなさい。……」
 駅で降りたあと、ご主人とぼくが加わる。しばらくご夫婦の体験談に耳を傾けた。明日が楽しみになった。

10月27日、その他の写真

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