2002年4月29日(月)、"緑の日"。
 友人が送ってくれた招待券で、妻と「雪舟展」に行った。
 早手回しの五月晴れどころか、午前中から初夏の陽気。上野公園は大いににぎわっていた。とりわけ「雪舟展」の東京国立博物館前。
 当日券売場の前はどの窓口も行列でごった返している。横目で見やりながら会場入口に進むと、ここも長蛇の列が何列もうねっている。入るのに30分はかかった。
 
 館内展示場は階段を上って左右二つの会場に分けてあるが、両側とも"芋をこねる"混みよう。3時間かけてひとわたり見て回った。妻ともども消耗の極地だったが、それなりに心の満足をえた。
 縄張りで仕切られた狭い通路を一列縦隊の蟻になって見物した「山水長巻」はやはり圧巻。当分忘れないだろう。

 帰りがけ、文化会館近くに来たところから本題がはじまる。
 サックスの響きが耳たぶをくすぐった。この楽器の甘ったるくけだるい音色は、感傷的である。妻としばし余韻を分かち合っていた雪舟展はここでフェイドアウト。いぶかる妻をよそに重低音に向かって急ぎ足になる。
ストリート・ミュージシャン わずかな人だかりの中で、彼は演奏していた。やや小太りの青年。アルトサックスを首にぶら下げ、無心に吹いている。メロディは聞き覚えがあるが、曲名は知らない。
 年令(とし)のせいか、この手の曲、チョコレート味で、無理むりセンチにさせる音色と旋律は辟易(へきえき)なのだが、さっきまでの疲れへの癒(いや)し効果か。いまは心地よい。
 見物の輪に入り、佇んでしばらく聞き入る。急(せ)かす妻を先に帰らせた。

 何曲目か聴いているところへ、公園管理人が数人して押しかけた。
「通行人の邪魔になるんだよ!」
 強制退去を迫る。
 びっくりした。この広い公園内大通りで、迷惑している通行人はどこにいるのだろう。聞けば告発者もないようだし、彼はそれなりの許可を取っているという。それに、耐えられない騒音でもあるまいし。このゴールデンウイークに、管理人の方もお役目ご苦労様なのだが……。
 
 押し問答がしばらくあって、見物人が恐る恐る彼の抗議に加担する。ぼくも加わる。
「通行人のぼくたちが楽しんでいるのですから」
「どなたの邪魔にもなってないじゃないですか」
「公園の許可を取っていると言ってますよ」
「なにかを売っているわけでもないのだし。ぼくはCDがあれば買いたいくらいだけど」
「…………」
 管理人は外野席に耳を傾ける様子はなく、ひたすら退去勧告を繰り返す。不思議なのは彼がさほど激していないこと。サックスに向かう姿に比べ、クールというか、……それとも気が弱いのか。
 議論がかみ合わないまま時間だけが過ぎ、野次馬はどんどん増える。
 彼が折れた。
「あそこの奥まったところではいけないでしょうか?」
「いいとはいわないが……、早く切り上げなさい」
 管理人が去り、彼は近くに場所を変えて演奏を再開した。 
 どこかで聞いたような曲を数曲続けて、休憩となる。
 行き掛かり上、もうワンクール付き合うことにした。サックス自体耳に甘いのだが、彼のはさほど度ぎつくない。路上にあぐらして、結構楽しんだ。満足の長居だった。
 
 彼、「ストリート・ミュージシャン」です、という。30代後半だろうか。
 「R&Bフュージョンを中心とした演奏活動を展開。現在、上野文化会館、銀座和光前、お台場などでのストリート活動及び各地でのサロンコンサートなど多方面で活躍中」、とチラシに書いてある。サロンコンサートはこれから、とは本人の言だった。 
 世の中、サックスの音色のように甘くはない。ぼくの「中高年の元気!」だってそうだ。これでも「インターネット紀行文・エッセイの変り種」として巷(ちまた)の脚光を浴びるべく、奮闘努力中なのだ。いまだ巷はコトリともしないが、「どこに隙間?」「別の切り口?」と、探求を怠っているわけではない。もちろん「中高年の元気!」そのものの充実化には日々研鑽中である。
 実力を伴わずして幸運は続かないが、実力があってもラッキーパーソンへの道は細くて長い。
 お互い努力、努力。
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〔サロンコンサート〕
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