ぼくの自称大作「ロマネスクと四神像」の主題は、
１．一橋大学国立キャンパスの兼松講堂が、なぜロマネスク建築様式で造られたのか
２．ファサードに同校の校章たるマーキュリーが飾られているのは肯けるとしても、同じ位置に鳳凰、獅子、龍のレリーフが飾られているのはなぜか
だった。
それに加えて、東京府中心部の神田から移転先が、なぜすんなりと、当時遠隔辺境の地であった武蔵野の谷保村に決まったのか、
これも解けない謎だった。
今年初めに、田﨑宣義氏から貴重な情報を受け取った。早速現地を訪れてみたのがこの写真集である。参考までに、現在推敲中である「ロマネスクと四神像」に書き加えたところを転載しておく。
──この武蔵野移転に関して、田﨑宣義氏（一橋大学前副学長）が次のような情報を寄せてくれた。
ＪＲ国分寺駅南口のごく近くに、『殿ヶ谷戸庭園』という東京都指定の名勝がある。この庭園は、如水会初代理事長を務めた江口定條氏（当時三菱合資会社営業部長、後満鉄副総裁）が、大正四年（一九一五）に別邸として、武蔵野の地形を巧みに活かして作った。
神田キャンパスが国立へ移転することになる関東大震災の前から、ここで東京商科大学の園遊会や祝勝会が開かれていたという。
したがって、武蔵野・谷保村（後の国立市）の広大な雑木林の存在は、大学関係者には、関東大震災の何年も前から知られ、大学町を創る際に早くから候補地の一つに挙がっていた可能性もある。
庭園は、その後昭和四年（一九二九）に三菱財閥が買収し、昭和四十九年に東京都の所有になって現在に至る。とりわけ次郎弁天池は、江口定條が造った形そのままをとどめているようで、何十段もある石段を上った高台に建てられた、紅葉亭からの景観は、見応えがある………… |
|
