夜も更けて八時に四人がやって来た。先日組合長宅に押しかけたと同じやからだ。二十代から三十過ぎの無頼風気取りで、いずれも居丈高である。四人ともずだ袋を手にしているが、中に何が入っているか。
「按唐組や、入るでえ!」
ドスをきかせた声とともにガラス戸を開ける。一瞬、海の雨風が吹き込んだ。
「この前組合長に頼んだことやけどな。答え聞かせてもらいに来たで!」
ずんぐりの兄貴分が上目づかいでそう言ってから、
「組長からもよ、よろしくいうことや」
と付け加える。
次いで役員の車座をにらみながら、ずかずかと座敷に上がってあぐらする。他の三人は土間ですごんでいる。
組合長はもじもじして、
「そのことやけど……」
と抑揚のない声で言いながら、横目で京蔵をうながす。
ごま塩頭の京蔵は先ほどと変わらず、あぐらで腕組みしたまま、視線を対座するずんぐりの目元にゆっくり向ける。一呼吸間を置いて、地声のしわがれで静かに口を開く。
「おまえら、親を泣かすようなことしたらあかんで」
思いもよらぬセリフに、やくざも組合側も唖然とする。組合側は後ずさりし、やくざは、弟分三人を背にしたあぐらの兄貴分が色をなす。
「なに! それが答えか。わかったような面さらして、おまえ、どうなるかわかって言いやるんやろな。組合長、それでええんか!」
がなり声を聞こえなげに、かたくな男はじっと目を相手の目にあわせて言う。若白髪のまじった太めの眉毛はぴくりともしない。
「おまえら、自分のやってること分かってるのか」
両隣に座っている役員は、あわてて京蔵から離れてさらに後ろにいざる。他の役員も腰を引っ込めて息を呑んでいる。
間をおかず、土間の一人がわけの分からない声を張り上げながら、そこの花瓶を京蔵めがけて投げつける。花瓶は水しぶきとともに京蔵の頭をかすめて後ろの頑丈な柱に当たり、金属音とともに砕け散る。
残りの二人が土足で座敷になだれ込み、目のつり上がったほうが京蔵に飛びかかる。ぶん回した右手のずだ袋が空を切ったあと、むしゃぶりつくように京蔵の胸ぐらをわしづかみしようとする。一瞬、そいつは一メートル後ろに吹っ飛んで、うずくまる。
折れたらしい右腕を抱えながら、
「痛いよう、痛いよう」
声を絞り出してうなる。
京蔵はいつの間にか片膝を立てて次に備えている。どす黒い顔つきは普段のままだが、油断のない物腰は見て取れる。役員一同は当面の修羅場から遠ざかっている。いま起こっていることが夢うつつのようだ。
モヒカン刈りの二人目がなにやら鈍器を握りしめて京蔵の頭をねらう。すばやく体をかわすと、奴は勢いあまって、ひっくり返った湯飲み茶碗に足を取られてけつまずき、目標を失ってしっくいの壁にしたたか頭を打ちつける。
しかめっ面で鈍器を持ちなおし、向きなおろうとするところへ、京蔵の松かさのげんこつがみぞおちにドスンと入る。モヒカンは目を白くして悶絶した。
最前花瓶を投げた三人目が
懐から
匕首を出して
鞘を払う。刃渡り
九寸五分がにぶく光る。すでに目は血走り、手が震えている。
京蔵は片膝立てのまま、呼吸も荒くなく、今度は血気にはやる若いのと畳で居直っているずんぐりの兄貴分を両にらみして、低く言う。
「おまえら、ほんまにくずやで」
兄貴分がたまらず若いのを必死の形相で制止して、
「今日は帰ったほうがええ。おやじに話したほうがええ」
…………
聞くに耐えない捨てぜりふを虚空に吼えて、四人とも去る。手負いの二人を他の二人がようやっと抱えながら。
開け放たれたガラス戸を突っ切って潮まじりの雨が吹き込んだ。
4.組長が来る