二日目、10月22日(水)。
 6時半起床。4人は風呂に行っているか、部屋はぼくだけだ。
 睡眠は短かった割りに深かったようだ。そう快、二日酔いなし。朝湯でさらにすっきりした。
 さすが魚沼産のコシヒカリ。朝食のご飯はそれ自体がご馳走だった。ぼくは一膳でセーブしたが、おかわり2回の者もいた。

 I君の計らいで、ゆのたに荘の出発は予定をぐっと遅らせて9時半とする。今日は「奥只見湖で船上紅葉狩(もみじがり)」を予定している。
 朝から本格的に雨。尾瀬の木道散策ならむずかしい日和だ。今日が草もみじでなく、もみじ狩りでよかった。
 船着場の銀山平まで、昨日と同じ長い長いトンネルを通過する。全長18kmとか。一山二山を貫通しているのだろう。
 やっとトンネルを抜けて明るくなると、見渡す限り紅葉の世界。すごい景色が待っていた。

 10時半出発の船に乗る。湖上小一時間の紅葉狩りは、忘れえぬ思い出になるだろう。
 豪華絢爛の紅葉がぐるっと湖を囲んでいる。赤から黄・薄緑まで、さまざまな色模様が雨にけむっている。桃源郷をこれ見よがし気に展開している……、でいてシック。
 船のゆるやかな進行に伴い、景色はスライド映写のように次々と変化していく。感嘆の声とめどなく、時だけが非情に過ぎて、夢見心地からわれに返ると奥只見電力館側船着場が目の前にあった。 

諸人に給はる贅(ぜい)や紅葉狩
             東尾G子(きよこ)

 
 またしても失敗談。
 旅行直前に超小型・薄型のデジカメを購入した。腕はともかくカメラを信用して、ろくろくマニュアルを読まず、即本番とした。他の場所は概ね別の大きいデジカメにしたが、ここは全てこのカメラに頼った。
 なぜだ! 大半がボケている。本当に悔しい。訪れるチャンスは何度あっても、この景色とこの感動はありえない!

 奥只見電力館は惜しいことをした。こちら側からマイクロバスが待機している銀山平までの巡回バス、1時半のを逃すと次がなんと5時半。
 一応内覧したが、もっと居たかった。とくに2階の展望窓に展開する紅葉のパノラマは、湖上とは違った迫力がある。案内員の恨めしげな顔、ぼくたちも同じ顔で時間を恨んだ。

 午後は帰り道でりんご狩り。群馬沼田市の原田農園に立ち寄ることになっている。
 銀山平からの道は、長いトンネル、短いトンネルを何回もくぐる。くぐるごとに景色が変わっていく。紅葉オンパレードから、色づき程度へ。そしてまだ夏の名残りをとどめる緑の山々へ。奥只見が遠くなるにつれ、沼田市が近づくにつれ、錦秋の色彩が緑の山景色へとバトンタッチされていく。雨空も景色とともに後方に消える。関越自動車道沼田インターチェンジを出てりんご園に着くと、薄日さす好天になっていた。

 原田農園は単なる農家にあらず。斯界大企業である。季節によって、きのこ狩り・イチゴ狩り・さくらんぼ狩り・とうもろこし狩り・ブルーベリー狩り・ぶどう狩り、そして8月下旬から12月にかけてはりんご狩り。
 食事も、「500名収容のお食事処、他に4つのお座敷。同時昼食1,300名まで承ります」とのこと。

りんご狩り 陽気にも助けられて、格好のりんご狩りを1時間以上楽しんだ。
 ぼくはもっぱら食感に余念がない。陸奥、陽光、赤城、フジ……、ほかにもあったか。もいだすぐをガリリとかじるそう快さ。品種の違いがくっきり味に現れる。味のよしあしは好みの問題としよう。
 ぼくは正直全部うまかった。剥(む)いてまな板に乗るを待ちかねて次々とほうばる。先刻ドライブインでの軽い昼食に感謝しつつ自分で驚くほど食べた。
 (ぼくの好きな果物は絶対柿だ。次が梨で、あとは"なし"。みかんとりんごは普段妻に付き合う程度だが、今日のりんごはよかった)。
 〔雑記帳第24話「初詣をはしご」(Part3柿の話)〕

りんご狩いのち継ぐ芽をいたはりて
                東尾G子

 みんなはそれぞれ、もいだのを仰山篭(かご)に入れて持ち帰る。宅急便にしているものもいる。自分で味見してのことだから、これ以上自信たっぷり≠フみやげはなかろう。最終の立ち寄り先としてリンゴ狩り、I君の粋な計らいが効いた。

 帰りは上越新幹線上毛高原駅から。列車はひと駅前の越後湯沢始発だから、ガラガラだった。思い出話に花が咲いているうちに東京駅着(5時半)。遠路大阪からの仲間も、なんとか今日中に帰宅できよう。
 案内名人I君に感謝、みんなに幸あれ。新宮高校に乾杯! 

小話集第22話〔草もみじと紅葉の旅〕 おわり
2003.10.19

朗読(08:52) on
 
Part1
尾瀬の草もみじ
Part2
奥只見の紅葉
 
再朗読(2023.04.01) 15:21
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