2015年8月23日(日)から3日間、福島県の土湯温泉、そのホテル「山水荘」でくつろいだ。福島市土湯温泉町字油畑。番地からも温泉のゆったりしたおもむきが伺える。
 そのとおりで、滞在中あいにくの天気をあいにくと思わせない雰囲気が、湯船だけでなく、ホテルのそこかしこに漂っていた。

 先月の初め長野県上田市から近い別所温泉に2泊した。()の地が温泉地というよりも〝信州の鎌倉〟の宣伝どおり、町の内も外もお寺に彩られていることを知り、思わぬ御利益を感じたのだった。(某日@某所「別所温泉3日間、7月1日~3日」)
 その余韻さめやらぬ数週間後、妻が「ここどうかしら?」と、トラピックスの月刊誌で見つけたのがこの旅。
 「深山と渓流の里、福島県土湯温泉 雄大な大自然に囲まれた風望天流〝山水荘〟3日間」
 ここ、〝福島城下町から会津方面へと向かう会津街道(土湯街道)の宿場としての役割を兼ね備えた温泉郷として1400年以上の歴史を持つ温泉〟という。
 妻は8月23日(日)の出発が都合いいらしく、ぼくはいつでも良かった。

 その日、東京駅で正午ジャスト、東北新幹線〝やまびこ137〟に乗り、1時間半で福島駅に到着。ホテルの送迎バスが待っていた。
 雨は小降り。どんよりした車窓の景色が徐々に山あいらしくなったところで土湯温泉の標識も現れて、30分少々でホテルに着いた。玄関は老舗を感じさせる。

 部屋に荷物を置き、「さて」と窓の外に目をやると、本格的に降り始めている。温泉街散策はあきらめて、ホテル自慢の温泉でくつろぐことにした。
 6階に〝瀧の湯〟と〝淵の湯〟、3階が昼間混浴ともなる〝太子の湯〟。1階にも〝つれづれの湯〟と〝たまゆらの湯〟がある。
 まずは6階の〝淵の湯〟へ。二階建てで、上の湯も下の湯も源泉掛け流し。露天風呂(写真)は心地よさもさりながら、向こうで幅広に落下する二段の瀧の眺望は天下一品。雨音をしのぐ瀧音響かせて、山あいの温泉郷を目にも耳にも感じさせた。

 夕食は二晩とも地の山菜づくし。行き届いたおもてなしに気をよくして、地酒を冷やでたしなみながら、じっくり味わわせていただいた。茗荷ご飯は、おにぎりにして持ち帰らせてくれた。

 旅の二日目は福島市巡りを考えていた。が、この雨。そして……。
 打ち明けると、ここ一年近く、独りよがりの作業に没頭していた。このホームページ「中高年の元気!」に、英文コーナーを設けよう。自分なりに英文で日本紹介をしたい。観光案内だけなら、手頃なのが世にあふれているから、ぼくの出る幕はないしその力もない。が、ぼくにはこれまで書きためた自身の紀行文があり、それらを英訳すれば、何らかの形をなすかもしれない。そんな魂胆に英会話力向上の余得をも意図して、連日作業に励んでいた。
 その間に、長編自伝小説「ぼくの速玉時代」の英訳を思い立ち、並行してやり遂げたのはいいが、途中で原文の改訂に意を決し、かなりの時間を割いた。
 こうなれば、十年ほど前に書いた自称超長編小説「怪獣の棲む講堂物語」の大幅改訂だ。読み直すと、さらにその気持ちがつのる。二ヶ月ほど没頭してまだ道半ばだが、かなり体力消耗の感があった。
 そんなときの旅行だったのだ。くつろぎたい!

 本格的な雨の中、10時ホテル発の送迎バスで福島駅まで来たのはいいが、帰りの2時までどう過ごすか。
 駅の案内所で説明を受け、近場の観光地図に印をつけてもらったが、その気にならない。とりあえずすぐそこのコラッセ福島という複合施設のビルへ行って、福島県観光物産展を見物することにした。1階全体に展示されていた。

 まずは12階の展望台でぐるりの景色を見渡す。雨にけぶって変哲ない。がらんとした室内の木の腰掛けでしばらくくつろいだ。

 1階の福島県物産展を見物しはじめてすぐ、土湯温泉は「こけしの町」なのだ、と気づかされた。東北地方がこけしの里だとは先刻承知だが、その中で福島県が土湯系のこけし。展示場での写真は取り損なったが、土湯温泉と飯坂温泉、岳温泉のそれらが沢山展示されていた。
 インターネットの紹介ページを参照する。

 伝統こけしは産地によって特徴に違いがあり、次の系統に分類することが出来る。
 土湯系(福島県)…頭部には蛇の目の輪を描き、前髪と、鬘の間にカセと呼ぶ赤い模様がある。胴の模様は線の組み合わせが主体。
 弥治郎系(宮城県)…頭頂にベレー帽のような多色の輪を描き、胴は太いロクロ線と簡単な襟や袖の手書き模様を描く。
 遠刈田系(遠刈田温泉・宮城)…頭頂に赤い放射線状の飾りを描き、さらに額から頬にかけて八の字状の赤い飾りを描く。胴は手書きの花模様で菊や梅を重ねたものが一般的、まれに木目模様などもある。
 鳴子系(宮城県)…首が回るのが特徴。首を回すと「キュッキュ、キュッキュ」と音がする。胴体は中ほどが細くなっていて、極端化すれば凹レンズのような胴体を持つ。胴体には菊の花を描くのが通常である。
 鳴子温泉には2010年に訪れた。「某日@某所 “鳴子温泉、尿前の関2010“」
 作並系(仙台市、作並温泉、山形市、米沢市、寒河江市、天童市)…頭頂に輪形の赤い飾りを描き、胴は上下のロクロ線の間に菊模様が描かれる。
 蔵王高湯系(蔵王温泉)…頭頂に赤い放射状の手柄を描くが黒いおかっぱ頭もある。胴は菊や桜のほか、いろいろな植物を描く。
 肘折系(肘折温泉・山形)…頭部は赤い放射線か黒頭で、胴模様は菊、石竹などが多い。
 肘折温泉には2008年に訪れた。「雑記帳第50話 ”山形肘折温泉2008”」
 木地山系(秋田県)…頭部には大きい前髪と鬘に、赤い放射線状の飾りを描く。胴は前垂れ模様が有名だが、菊のみを書いた古い様式もある。
 南部系(盛岡、花巻温泉)…おしゃぶりとして作られた無彩のキナキナが原型。簡単な描彩を施すものも作られる。キナキナ由来で頭がぐらぐら動くのが特徴。
 津軽系(温湯温泉、大鰐温泉・青森)…単純なロクロ模様、帯、草花の他、ネブタ模様などを胴に描く。
 なるほど、山水荘館内も土湯こけし満載だ。土産物コーナーはもちろん、1階の広い展示場から各階全て、土湯こけしがあどけない顔々で〝こらっせ〟だった。

 土湯こけしは、まこと福島市を代表する郷土玩具。
 三大こけし発祥の地とか(他は鳴子温泉と遠刈田温泉)。土産物としてはもちろん、温泉街の様々な場所のモニュメントにも使われている様は、行き帰り二往復のバスの車窓からも見て取れた。

 ホテルのみなさん。3日間、思いやり・おもてなし、ありがとう。
 最終3日目、送迎バスでホテルを10時出発。福島駅のぐるりを散策する時間的ゆとりはなく、駅構内の商店街で漫然と過ごす。
 改札口付近に飾ってある郷土名物に注目した。
 11時16分福島駅発の〝やまびこ136〟で東京には12時48分に着いた。
 遅い昼食を駅レストラン街ですませ、夕刻帰宅。近くのスポーツプラザで一風呂浴び、いつものテレビ桟敷となった。
 山水荘の売店で買った小さなこけしはすでにみんなの仲間だ。このように中央で目立っている。


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