暑い暑い夏がようやく終わった。
その余韻さめやらぬ数日を九州に旅した(9.21-25)。妻と、83人のツアーに参加して。
土砂降りの高千穂、まばゆい鬼の洗濯岩、噴煙の桜島、薩摩富士が南海に映える指宿、戦争の悲惨を留める知覧、そして長崎。
「ゆくさおさいじゃしたもんせ」(ようこそお越しくださいました)
鹿児島弁のこれが気に入った。
宮崎の民謡「いもがらぼくと」を歌いあった。
1.♪♪ |
腰の痛さよ 山畑開き
春はかすみの 日の永さ
焼酎五合の 寝酒の酌に
おれも嫁女が欲しゅうなった ヤレ
もろたもろたよ いもがらぼくと
日向カボチャのよか嫁女
ジャガジャガ マコチエレコッチャ
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♪♪ |
2.♪♪ |
くらに菜の花 ヒャラヒャラヒャラと
七つ浦から 赤毛布
可愛い嫁女は シャンシャン馬で
今年しゃ田植も 二人づれ ヤレ
もろたもろたよ いもがらぼくと
日向カボチャのよか嫁女
ジャガジャガ マコチエレコッチャ |
♪♪ |
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Tシャツで行って長袖で帰った。

…………
その後天気は一転してぐずぐずの雨。安達太良山はどうしよう? 予約を取り消したいようなうっとうしい日が続く。
そして2000年10月1日、
早朝6時前に家(うち)を出た。小ぬか雨に傘さして……。
夜中に聞こえた雨音は本降りだったのだ。路上の水溜りは避けて通れないほどで、空は今日も一日中雨を約束しているような雲行きだ。
JR新浦安から東京で電車を乗り継ぎ秋葉原へ。日曜日の朝にしてはネクタイ・背広姿が目立つ。今日でシドニー・オリンピックが終わる。
7:00、ツアー参加者74人を2台に分けて、バスは秋葉原駐車場を出発。今日は大人数の中の一人旅だ。
重く垂れ込めた雨雲に送り迎えされながら、バスは東北自動車道を安達太良(あだたら)山に向かって驀(ばく)進した。
あだたら高原Fホテルのレストハウス着、11:00。ここが奥岳温泉という名の山裾だ。
「この天気ですから、頂上での昼食は無理のようです。少し早いですが、ここで昼食を済ませていただきます」
添乗員が予定変更をすまなそうに告げる。
バスの中でパンをほうばったばかりだから、食欲もないし胃も受けつけない。おにぎり1個だけ、無理やり胃袋に押し込んだ。
雨用登山姿に衣替え。
『あれが阿多多羅山、あの光るのが阿武隈川』ではなく、四囲は濃い霧に咽(むせ)んでいる。
草っ原に近づくと、コスモスのピンクが目に優しい。
芭蕉の句がいまからの山行を予言しているかのようだ。

道程
安達太良山の登山ルートはいくつかあり、今日は薬師岳ルートを辿るという。車中で手渡された案内によると、こうだ。
奥岳温泉登山口 (ゴンドラリフト) → 薬師岳 → (11:30) 安達太良山頂 → (0:05) 牛の背→ (0:30) 峰の辻 → (1:00)
くろがね小屋 → (1:30) 勢至平 → (2:00) 烏川橋 → (あだたら自然遊歩道 2:30) → (3:05) 奥岳登山口 |
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奥岳温泉から「あだたらエクスプレス」という6人乗りのゴンドラリフトに揺られて7、8分。薬師岳に着く。12:00。安達太良山登山口だ(1,356m)。ここも霧が立ち込めている。
12:10、ツアーの隊列は山頂を目指し、標識に沿って出発した。
泥んこ道である。粘土質に加えて数日来の雨。初手から靴は泥にまみれた。が、雨は小止みになったようだ。時おり垣間見せる霧のまだらは明るくなってきた。
出発のときから気づいていたが、登山客が後から後から下りてくる。いま、この狭い山道は交差する登山姿でひしめき合う。早朝登山者がちょうど下りてくる時間でもあろうが、《やはり!》。人気の山である。
中高年で高村光太郎を知らない人はなかろう。ならば彼の彫刻や絵に覚えがなくとも、彼の詩の一つや二つを断片的にでも思い出す人は多いはずだ。ぼくもそのひとりで、だからこの山に一度は来てみたかった。
その同類項を括弧でくくれば、この天候不順にかかわらず、山道はこのように賑やかになる。そう得心しながら歩を進める。
どろ道は横に置くとしても……、交互に現れるガレ場、覆い被さる雑木林、狭くて険しい急登、左右のブッシュ。

《光太郎の頃なら》
この道にはやはりこの詩が似合う。

「道程」 高村光太郎
さすがにレインコートの下は暑い。背中は汗がジットリのはずだ。
……木々は正直だ。色づきはじめている。《紅葉!》というには10日やそこらは早いようだが、自然はすでに長い猛暑にさよならして、次の季節へと急いでいる。
足元に気を取られているうちに、急登になっていた。12:40。
ここで展望が開けて小休憩。霧はあい変らずだが、目に見えて薄くなっている。もう雨の心配はない。レインコートを脱いだ。

ナナカマド・オンパレードである。紅い実が薄霧に映える。周囲の緑がそれをいっそう際立たせている。道の左右は潅木がトンネル状に生い茂っている。目にも心にも快適だ。
山に来てよかった。うれしさがこみ上げてきた。

あい変らず下りの人たちとすれ違う。
「こんにちは!」
声をかけ、かけられながらひたすら登る。ガレ場が赤茶けてきて、急登がさらに険しくなったと思ったら、真上は通称乳首≠ニいう、安達太良山の頂(いただき)だった。
